第2回
混沌の時代のリフレッシュ術
『頭の体操』にチャレンジして、新しい発想を生み出す
学校の勉強とは一味違った難解な問題が出題された『頭の体操』には、
ある年代以上の人なら、一度は頭を悩ませたことがあるはず。
最近では、ナゾ監修をしたゲームソフト「レイトン教授シリーズ」が大ヒット。
固定観念にとらわれない柔軟な思考方法を多くの人に教えてきた
多湖輝先生に、頭の体操の意義と重要性をきいてみた。
たご・あきら
1926年スマトラ島生まれ。50年東京大学文学部心理学科卒。66年千葉大学時代に『頭の体操』を刊行 。89年千葉大学退官後もテレビ等で活躍。現在は東京未来大学名誉学長、千葉大学名誉教授、特定非営利活動法人「0歳からの教育」推進協議会理事長、東京都名誉都民

固定観念を打ち破る 発想転換のトレーニング
多湖先生の名前を一躍有名にした『頭の体操』には、さんざん悩まされた思い出がある。1966年の第1集から今までに23冊刊行され、総発行部数は1200万部に達するという大ベストセラーだ。
それでは、あんな難しい問題を考えた多湖先生の頭の中は、いったいどうなっているのだろうか?
「『頭の体操』はクイズの本だと思われている方が多いようですが、実際には、固定観念を打ち破る思考方法を身につけるために集めたパズルの本です。もともとは、私が集めていた心理学の研究資料です。常識を捨てて、頭の切り替えを促す問題が中心だったため、インパクトがあったのでしょう。問題のページをめくるとすぐに解答があり、なぜ正解が出せないのか、なぜ引っ掛かったのか、その理由を解説するコメントを付けたこともヒットした秘密かもしれません」
最近は、テレビ等でもクイズ番組が花盛りだが、クイズとパズルとは、根本的に違うものだそうだ。
クイズは、幅広い知識を問う問題が出る。例えば、地理や歴史、数字や漢字、科学や芸術などの知識だ。答えを知っていれば答えられるが、知らなければ、簡単な三択問題でも間違うことが多い。
一方のパズルは、答えを自ら考え出す能力を問うもの。例えば、図形やなぞなぞ、とんちの問題などだ。固定観念にとらわれていると解決できない。頭を切り替えて、ひらめきや論理的思考によって、問題を解決する方法を考え出さなければならない。例を挙げれば、「ピカソの生まれた国は?」などがクイズの問題で、「マンホールの蓋はなぜ丸いのか?」などがパズルの問題である(答えは、前者がスペイン、後者は、ほかの形だと穴に落ちてしまうから)。
「パズルは、小学生からお年寄りまで、誰もが発想を転換するだけで問題を解けるのが特徴です。逆に、どんなにIQが高くても、知識があっても、頭の固い人には解けません。柔軟さがなく、思い込みが強い人ほど、出題者のワナに引っ掛かってしまうんです」
『頭の体操』で紹介された問題は、合計すれば数千題にも及ぶ。これを考える方が、パズルを解くより大変だったことは、想像に難くない。多湖先生は、あまりの好評に続刊をすぐに出すように求められ、根を詰めて4巻まで出したとき、体調を崩してしまったという。しばらく休養するためにアメリカへ研究留学など。
10年間の中断の後は、年に1巻の割合で刊行してきた。
「大学を退官したとき、出題者の私自身が、それまで国立大学の教授というワクにしばられて自由な発想をしていなかったということに気付いたぐらいですから、ユニークな創造性や新しいアイデアを得るためには、常に頭をリフレッシュしておく必要があります。行き詰まったとき、壁にぶつかったときに、問題解決のひらめきやアイデアを生み出す訓練になるのが、『頭の体操』です」
「脳トレ」ブームの昨今、問題のストックがたくさんある多湖先生は、テレビ等に引っ張りだこ。携帯電話用サイトもできているほか、携帯ゲーム機・ニンテンドーDS用に、『頭の体操』を基にした謎解きソフト「レイトン教授シリーズ」が発売され、爆発的な人気を集めている。
混沌の時代、変革の時代を乗り切るためにも、ストレスやうつ病の予防のためにも、頭の体操は欠かせないのである。
型にはまらない発想が 日本人の創造性を生かす
「学力の世界ランキングの低下、また自分の殻に閉じこもる傾向の増加が示すように、最近の日本人には、何とか閉塞的な現状を打破したいという覇気や活力が不足しているような気がします」と嘆く多湖先生。「本来の日本人の創造能力は、なかなか大したものなんです」と、革新的な技術を開発した日本のベンチャー企業の事例をいくつも例に挙げてくれた。
一本の糸でニット製品を編み上げる技術を開発し、世界の有名ブランドに編み機を納めている手袋メーカー、痛みを感じない細い注射針を開発した東京の金属加工会社などなど。
「そういう創造性を持っている人は好奇心が旺盛で、アグレッシブな性格です。課題をはっきり認識し、あらゆる角度から検討する柔軟な発想をし、知識ではなく智恵を働かせなければ、突破口は開けません。ひらめきを科学的、論理的な思考に転換できる人だけが、技術革新に成功しています」
古代エジプトの寓話「スフィンクスの謎かけ」にみるように、昔から人間はパズルが好きで、智恵を働かせる遊びで脳をトレーニングしてきた。人類が生き残り、進化することができたのは、頭を使い、発想を転換し、環境の変化に対応してきたからにほかならない。
「しかし残念なことに、日本人は蒸気機関車などの歴史的な大発明とは無縁です。現在の飛行機には日本の技術が不可欠ですが、飛行機を開発し、ジェット機にまで進化させたのは欧米の技術者たちでした。彼らは『空を飛びたい』という強い思いから、それを実現するためには何が必要かを考え、一つひとつの技術を積み重ねて体系化し、システムとして空を飛べる飛行機を創り出してきたのです。そういう大きな夢を実現する総合的戦略や、それをやり抜くしたたかさが、人類の歴史をつくってきたのです」
どうやら、日本人は精緻なものを作る技巧的な創造性はあっても、何もないところから、とんでもない大物をでっち上げる戦略的発想は苦手としているようだ。これは俳句的感性の文化を持つ日本人の国民性なのかもしれない。
「パズルにしても、欧米には突拍子もない解決方法を考え出す人がいます。日本人も新発想はできるし、アイデアをひねり出すのは得意なんですから、これからの若い人には、日本的な型にはまらない大きな夢を持って、世界の技術者と勝負をしてもらいたいものです」
知的なセンスに優れ、高い技術力を持つ日本人の秘めたる底力に期待したいものである。
2008年10月22日掲載
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