第7回
[後編]「頭がいい人、悪い人」のビジネスコミュニケーション
~樋口式「頭がいい人」の文章/会話術
「白藍塾」塾長 京都産業大学客員教授 樋口 裕一 氏

「白藍塾」塾長
京都産業大学客員教授
樋口 裕一 氏
論理的な思考を身につけると、文書や会話といったコミュニケーションでの説得力が格段に向上します。こうした思考法は、報告書の作成や会議の進行などの、日常業務にも応用できます。思考法の根幹について伺った前編に引き続き、後編ではビジネスでの活用について、『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP新書)の著者である樋口裕一氏に伺いました。
レポートの賢い書き方とは
ビジネスマンの場合、昇進試験で小論文を書くこともあるかもしれませんが、それより、レポート(報告書)を書くケースの方が多いと思います。レポートは、単なる報告だけでなく、事実に基づきどうするべきかを述べる場でもあると思います。このため、前編で解説したように、レポートも四部構成で書くべきと考えています。
四部構成の最初となる第一部では、「こうするべきだ」と、自分の立場としてYES、NOの立場を明確にします。たとえば、支店数拡大に関するレポートでは、自分がどちらの立場なのかを書きます。YESなら「私は支店数の拡大には賛成」と冒頭で明言するとよいでしょう。次の第二部では、「確かに競合他社は多い、新規の顧客を確保するのは難しい」と、反対意見を記述し、その後、「しかし、既存支店での契約は頭打ちだが、支店を出し商圏を拡げることで打開できる」などの意見をあげ、反対意見を潰していきます。実際の業務では、反対意見が複数あることも多いので、説得力を増すためにも、それぞれきちんと反証することが大切です。そして第三部では、自分の意見に対する根拠を、前編で説明したように、「3WHAT3W1H」に基づき述べていきます。たとえば、「他業種のA社はこの地域に支店を出し成功した」などとなります。そして最後の第四部では、もう一度結論を述べます。このような構成にすることで、「今回どう書こうか」と悩むことなく、論理的で説得力のある報告書が書けるわけです。後は、中身についてですが、これについては、仕事にどれだけまじめに取り組んでいるか、どれだけ情報収集を行ったかということなどがポイントとなるでしょう。

効率のよい会議の進め方
次に会議について説明したいと思います。小論文や報告書と同様に、会議も四部構成となります。まず、第一部は問題提起となります。会議は反対意見を出し合う場です。反対意見がなければ、進展もなく、単なる進捗確認で終わってしまいます。参加者のそれぞれから反対意見を出してもらうには、会議の前に、議題について周知しておかなければなりません。たとえば、「今後の勤務形態について会議を行うので、在宅勤務や裁量労働制の是非について意見を出してください」となります。
第二部は意見を提示する場となります。たとえば「在宅勤務は勤務時間が増えるから反対」など、参加者それぞれが、YESかNOで意見を明確にして意見を出し合います。意見を聞いている場合には、他の参加者の発言を、「3WHAT3W1H」に従ってメモを取ることで、発言者の矛盾点を発見できます。たとえば「なぜ在宅勤務で勤務時間が増えるのか」といった指摘です。さらに発言内容が立派でも、対策がない場合や、よその会社では失敗している、実は前にも言ったことだった、などに気づくことで、反論もできるし、補足もできるようになります。第三部は、全体の方向性を決めます。第二部で出てきた問題点が顕在化しないためにはどうすればよいのか対策を練ります。最後の第四部では、期日までに何を行うか、具体的にどうするかについて決め、散会します。たとえば「来月の会議までに契約社員の労働時間と内容などを調査する」などとなります。
会議をこのような四部構成にすれば、何のための会議なのかわからなくなったり、結論が出ずに終わるということがなくなります。反対意見を述べる場は第二部であるにもかかわらず、第三部や第四部の段階で、反対意見を述べてくる参加者もいるかもしれません。このように場違いな反対意見が出てきた場合には、速やかに却下できるよう、会議の進行役はある程度、権限のある人が務めるのがよいと思います。また、社長や部長など、その会議でのトップの人間が進行役を務める場合には、独断で進められることのないように気をつけなければなりません。

型を使いこなして、論理的な人となる
このように書くと、なんとなくできそうな気がするかもしれませんが、実際に行おうとすると案外難しいと思います。前編でも説明しましたが、論理的な思考を身につけるには、読むよりも書くことが大切です。論理的な文章を書く練習をすることで、論理的に話したり考えたりできるようになります。
たとえば、野球の解説を行ったとしましょう。野球観戦は好きだが実際にプレイしたことのない人と、元野球選手の解説では、解説の深みが違うと感じると思います。また、同じ景色を単に見た場合と、その景色を絵に描いた場合では、描いた人のほうが詳細な部分に気づくはずです。このように、実際に文章を書くことで、これまでは素通りしていた知識も身につけられるのです。
しかし、文章を書くと言っても、入試や入社試験対策などで文章を書く機会の多い学生とは違い、社会人にはさほど機会がありません。たとえ、文章を書いたとしても、自分の文章を客観的な視点で眺め、「説得力がない」などと気づくことのできる人は少ないでしょう。しかしながら、社会的な地位が高くなってくると、自分の意見を相手に伝える能力も必要となってきます。私がなぜ、社会人向けに文章術のセミナーを行っているかというと、添削を行うことで、こうした方々が自分の文章や会話、思考を客観視できるようになるきっかけを提供できると考えるからです。ビジネスでの売り上げなどに直結することはないかもしれませんが、受講者が論理的な考え方を身につけることは、結果的にビジネスや人生にプラスになると思っています。書く能力をつけたい人だけではなく、また、話す能力をつけたい人だけでもなく、物事を分析したい人、考えたい人は、文章を書いてほしいと思います。
余談ですが、私は最近、後悔することはあっても、悩み事をしなくなりました。それはなぜかというと、次にどうすればいいか、これを取り返すためには何をすればいいかと考えると、悩む暇なんてないからです。物事を考える時に、このように論理的に割り切って考えてみると、つまらないことで悩まなくても済み、決断も速くなります。こうした点で悩んでいる方にも、文章を書くことをお勧めしたいですね。
白藍塾文章術セミナー
『ホンモノの文章力』、『ホンモノの思考力』(共に集英社新書)や、『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP新書)などを執筆し、幅広い年齢層に向け文章法や思考法、教育、話し方などを教える樋口裕一氏が主宰する、文章術の通信添削塾。表記上の正誤ではなく、論理性や知識、発想といった内容に踏み込んだ添削を行うのが特徴。昇進試験や転職試験対策のビジネスマンだけでなく、部下に意見を正しく伝えたい経営者など、幅広い年齢層が受講している。
編集後記
一般的にはあまりトレーニングの機会が少ない、論理的に考えることや、説得力のある話し方についての具体的な方法を伺うことができました。「頭がいい人、悪い人」を分ける鍵が非常にシンプルなものであることに驚かされました。この論理的な思考法の基本を踏まえることで、レポートや会議のみならず、メールや電話などビジネスでのさまざまなコミュニケーションに応用していくことができると思います。
(2006年8月8日掲載)
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