第4回
[前編]中小企業によるITの活用 ~IT導入の経営判断
株式会社サイエント ビジネスアソシエイツ 代表取締役社長 中小企業診断士 横山 彰吾 氏

株式会社サイエント
ビジネスアソシエイツ
代表取締役社長
中小企業診断士
横山 彰吾 氏
IT技術やネットワークの普及で、インターネットへの常時接続が一般的となりました。しかし、すべての企業でパソコンやインターネットが活用されているわけではありません。「IT導入の必要がないから」と考えている中小企業の経営者も多いのが現状です。今回は、株式会社サイエントビジネスアソシエイツ、代表取締役社長、中小企業診断士の横山彰吾氏に、中小企業のIT導入の意義について伺いました。
IT化への危機感
中小企業のIT活用のお話しをする前に、まずは中小企業でのIT化の現状についてコメントしたいと思います。以前、私が担当した建設関係の小さな会社での例をあげると、その会社は会計システムを導入していました。パソコンに不慣れな専任の事務員が、毎週決めた曜日にだけ、伝票をパソコンに入力するという使い方でした。この会社では、これまで日常の業務にITがそれほど必要ではなかったからです。
しかし、最近ではIT化を無視できない状況になってきました。自治体では、公共事業の入札に、電子入札を取り入れていますし、入札概要もメールで送られてきます。見積もりもメールで送れるようになりました。業務にITが必要とされてきたのです。中小企業の経営者の方々も、周囲の環境がIT化していく中で、「自社も対応しないと」という危機感をなんとなく持っているものの、実際に何をどうしたらよいのかがわからない状況にあります。身近な相談相手には、契約している会計士や税理士が考えられますが、なかなか経理や税務以外の相談は難しいと思います。従って、何かの会合の折に同業他社の知り合いに相談するというのが、現実的な相談相手になると思います。
段階的な導入が鍵
経験上、ITを導入した瞬間に、業務内容がすべて良くなるということは難しいと思います。そこで、相談に来られる方々には、最終的なゴールに向けて段階的にIT化をはかっていくことをアドバイスしています。どんな業種にも当てはまることだと思いますが、いきなり大がかりなシステムを導入しても、十分に使いこなせないのが現状です。まずは慣れるということが大切だと思います。
中小企業のIT化の最初のステップとして、たとえば、自社のWebサイトを開設したり、グループウェアを使ってスケジュール情報などを共有したりすることが考えられます。自社のWebサイトを開設すれば、社員も自社のサイトを見ることで、ITに触れていくことができますし、事業内容や商品を紹介した動画コンテンツなどがあれば、なおさら、お客さまの興味を引くことにもなるでしょう。まずはこうしたことでITの使用頻度を高め、「あると便利なもの」からIT化に取り組めばよいと思います。
“あると便利なものからのIT化”の例として、複数の現場を持っている建築業のお客さまのケースをあげてみましょう。当初、そのお客さまは、日報システムを導入して情報共有をしたいが、どんなシステムが良いだろうか?ということを検討されていました。しかし、現場のスタッフは、作業に追われ、とてもパソコンを利用するという状況ではありませんでした。システムを導入したとしても、活用できるかおおいに疑問でした。
そこで、現場ごとの写真を、社内向けWebサイト上に掲載するツールを作りました。それにより現場の状況が一目瞭然でわかるようになり、いつも社長が気にして電話をかけて回ることもなくなりました。また現場からも、写真をアップしておけば、下手に日報を書く手間も減り、社長からも細かいことも言われずにすむ、ということで、競うようにそのシステムを活用するようになりました。ある複数店舗を持つ小売業のお客様でも似たような事例がありました。グループウェアの導入の代わりに、店舗ごとの商品の陳列状況の写真を、社内向けWebサイト上に掲載するツールを作りました。忙しい店舗のスタッフでも簡単に活用できるものでした。
この会社の場合、各店舗は、本部の指示に基づき商品を陳列するのですが、各店舗の陳列棚のレイアウトや店長の個性によって、実際の陳列は微妙に異なってきます。このツールの活用で、同じ指示を聞いたとしても各店舗でいかに異なって陳列されるかが一目瞭然になりました。
陳列方法と売り上げの相関関係を調べてみると、売り上げがいまひとつの店舗は、お客さまの動線から外れた部分に売れ筋商品を陳列していたり、特売のPOPが効果的に設置されていないなど、わずかですが解釈の違いや、工夫の不足があることが判明しました。最初は社内向けのWebサイトに陳列状況の写真だけを掲載していましたが、その後、店長がコメントもつけるようになり、それをきっかけに、店舗間の情報交換も活発になり、結果として汎用的なグループウェアを導入せずに、店舗の売り上げ向上に結びつく生きた情報共有が実現されました。
ほかには、ある建設機械メーカーの例で、文字や静止画では説明のしようがない特殊な採掘を可能にする建設機械を、動画でWebサイトに掲載したことで、突然多くの問い合わせや引き合いがきたという例もあります。
Webサイトの構築が企業を再構築
中小企業とWebサイトの関係では、Webサイトを持っていたとしても、5、6年前の「とりあえず作った」的なものが多く、大企業のように、Webサイトをビジネスツールとして使うところまでは来ていません。最近では、こうしたとりあえずのサイトをグループで統合、リニューアルして、コーポレート・ブランディング(※)を行うという動きがあります。
また、Webサイトを持たない企業からの要望で多いのは、人材募集と会社情報に関するWebページの制作があります。というのも、最近では、企業がWebサイトを持っていることが当たり前のように考えられており、Webサイトを持っていない会社には、応募者が集まりにくいという現実があるからです。実は、当社でも設立当時、求人情報サイトに募集広告を出そうとしたら、「Webサイトがない会社は掲載できません」と言われ、急遽Webサイトを作った経験があります。
こうしたきっかけで、Webサイトを作ろうとするわけですが、いざコンテンツを用意しようとすると、社外に向けて発信すべき情報が、案外少ないことに気づいたりします。 Webサイトの構築を契機に、経営者が自社の企業理念や経営方針を考え直したり、営業戦略を具体化したり、あるいは会社のロゴやマークなどを決めるなど、競争力強化の実践手法を発見し、実行していくことへとつながることも少なくありません。
- ※ コーポレート・ブランディングとは、企業が提供するサービスや販売する製品ではなく、企業そのものの価値を高め、企業にブランド力を持たせようとすること。
経営者が知っておくべきこと
中小企業にとって、必要な人材を、適切な費用負担で確保、維持し続けることは、重要な経営課題になっています。
余剰人員を抱える余裕はありませんから、最小の人員でやりくりをしていくことになり、結果的に、常に“人手不足”状態が続くということになるようです。この人手不足を解消するための手段として、ITの導入を考えるというのが、大企業とは違った導入理由の傾向です。
導入後のITの成果についても、一般的に費用対効果という観点で測られることが多いのですが、中小企業の場合、ITの導入は、「費用」として考えるよりも、人材の確保と同様に、新しい生産力を内包した「資産獲得のための投資」として考えたほうが自然なのではないかと思います。
また、中小企業のもう一つの大きな課題に、資金調達の問題があります。ITの効果がわかっていても、それを導入するための予算が組めないということが多いのです。これは大きな問題だと思います。そこで現在弊社では、自動車の残価設定ローンのようなしくみで、システム構築をできるだけ少ない負担で実現できる方法を提案させていただいています。
限られた予算で、業務のどの部分をIT化すればよいのかについては、事業特性ごとに異なります。PマークやISMS適合性評価制度といったセキュリティ関連の認証取得をするだけで引き合いが増える事業や、自社の商品をWebサイトで販売するだけで売り上げが倍になる事業など、IT化のインパクトは業種によってさまざまです。経営者の方がITの詳細な技術について知る必要はないと思いますが、自社のビジネスに役立つものは何で、それをITでどのように活かせるのかについては、ぜひ知っておくべきだと思います。
次回は、多くの制約がある中小企業にとっての、最適なシステムとは一体どのようなものか、ビジネス利用に耐える安価なネットワーク環境とはどのようなものかについて、お話ししたいと思います。
(2006年4月18日掲載)
- ※ 掲載日以降、最新情報ではない場合があります。あらかじめご了承ください。




