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第9回

[後編]メンタルヘルス・マネジメント ~働く人の心の健康チェック

コミュニケア・マネジメント 代表取締役 産業カウンセラー 金子 深雪 氏

写真: 金子 深雪 氏

コミュニケア・マネジメント 代表取締役
産業カウンセラー
金子 深雪 氏

健康診断で異常がなくても、体の調子が思わしくないことがあります。また、頭痛や胃痛の治療を続けても症状が改善せず、すっきりしないまま仕事を続けている人も多いのではと思います。実はこれらは、現代病とも呼ばれる「ストレス」の影響による可能性が高いのです。今回は、心のケアやコミュニケーションのカウンセリングを行うコミュニケア・マネジメント代表取締役産業カウンセラーの金子深雪氏に、ストレスとはどのようなものか、お話を伺いました。

現代社会はストレスだらけ

現代はストレス社会だとよく言われますが、確かにストレスが原因で病気になる人が増えています。仕事の忙しさという点では今も昔も変わりませんが、社会環境は大きく変化しています。たとえば成果主義になったり、OA化やIT化の急速な普及であったりします。

現代と比べると、昔は冷房のない職場も多くありました。暑いときに「暑くない?窓を開けようか」と声をかけたりすることで、自然なコミュニケーションが生まれ、それが大切な息抜きになっていました。ところがIT化によって、スピードと量をこなすことが求められるようになり、便利になった反面、個々の社員への負担が増えたのが実態です。仕事をこなすことに皆が必死になり、さらにメールの普及で、隣の人とさえ顔を合わせて会話する機会が減ることになりました。日常の職場での何気ない会話は、実はストレスを和らげるカウンセリング効果として大切なことなのですが、これが抜け落ちた時代になってしまったのです。

また、以前は帰宅して職場から離れれば、仕事からも解放されオフの状態になることができましたが、今ではメールや携帯電話があるため、心理的に24時間仕事から離れることができないという状況になっています。現代人の心の状態をボールに例えると、常に軽く押され続け、徐々に空気が抜けている状態にあります。

世代によって受けるストレスは異なる

また、世代によって受けるストレスも異なります。たとえば50代の方に多いのは、新しいIT技術への対応力や体力の低下、世代交代への不安が大きなストレスになっています。40代の方はミドルマネージャーとして活躍している世代で、かつて自分が受けた教育を部下に対しても行おうとします。ところが、価値観の異なる新入社員にはなかなか通じずうまくいきません。一方、上には自分を教育した上司がおり、板挟みになるというストレスがあります。

30代は、一定のキャリアを積んできて、職場では様々な仕事を任されます。プライベートでは結婚や子育て、住宅購入によるローンなども抱えるようになります。体力・気力も十分にありますので、こうしたプレッシャーに対して無理に頑張ろうとして、ストレスをためやすい傾向にあります。

景気の低迷期しか知らない20代の場合は、成績を上げてもボーナスに反映されるという経験があまりありません。上司から成績を上げろと言われても、モチベーションが上がらないのです。大きな仕事をやりとげたという成功体験も少ない世代とも言えます。また、生まれたときからパソコンやゲームが身近にあり慣れ親しんできたこの世代は、決められた手順通りに操作すれば、決められた結果を出せることに安心感をもつ傾向があります。しかし人間関係ではそうはいかず、予想できない反応がたくさん出てきます。この世代にとっては、予想できない、読めない人間関係がストレスの原因になることが多いようです。

ストレスはコップの水と同じ

ストレスはだれでももっています。私はストレスを感じない、という人もいると思いますが、むしろストレスは感じたほうが健康と言えます。ストレスを感じない人は、プログラマーなど、左脳を酷使する頭脳労働者に多い傾向があります。左脳は論理の脳であり、理屈や建前などを考えるときに使用します。一方、右脳は感受性を司ります。仕事などで右脳が不安を感じたとしても、左脳が働くと、自分の立場や役割を考え、これを抑え込みます。この状態が続くと、右脳が働かず、自分がどう感じているのか、ストレスを感じなくなってしまうのです。

ストレスは目には見えませんが、アレルギーの抗体と同じで、体に蓄積されます。根性を入れるとか、我慢して乗り切るなどで頑張っても、ストレスが体から消えることはないのです。これはコップに水がたまっているのと同じ状態で、水はいつかあふれてしまいます。そうなると、心や体に何らかの影響が出てきて、場合によっては重い病気になってしまうのです。ストレスの原因(ストレッサー)は人によって異なります。たとえば仕事内容や立場が変わったとき、長時間労働などによる日々の疲れが蓄積されたとき、家を購入しローンという心理的負担を感じたとき、定年退職や子供が巣立ったときなど様々なのです。

図: ストレスはコップの水と似ている

水をあふれさせてしまうのは、頑張り続ける人です。頑張る人は、生真面目で責任感が強く、周囲に迷惑がかかるから会社を休まない、自分より他人を優先させるというタイプです。または常に勝ち負け意識があるタイプです。コップの水をあふれないようにするためには、コップの下に蛇口をつけて、適度に抜いてあげることが大切です。

図: 蛇口から水を出してストレスをためない

「善玉ストレス」と「悪玉ストレス」

ストレスと言っても、実は悪いものだけではありません。一般的にはネガティブなイメージでしか捉えられていませんが、人間はストレスがないと生きていけないのです。たとえば家族をもったときには重圧を感じるでしょうが、家族を守ろう、頑張るぞ、というモチベーションにもつながります。新しい仕事を任されたときも同様です。このようなストレスは、「善玉ストレス」です。

しかし、自分ではコントロールできない相手の感情や組織的なストレスは、自分が吸収、飲み込まなければならないため、これが負荷となります。このストレスは、「悪玉ストレス」です。まずは自分がどのようなときにストレスを感じ、今現在どの程度コップに水がたまっているのかを客観的に知ることが大切です。

病気のサインに気づく

自分の状態の変化に気づくことで、ある程度把握することができます。ストレスがたまると、「3F(スリーエフ)」になると言われています。1つはFreeze(フリーズ)で、思考や行動が停止してしまうことです。周囲の人には、この人は何をやっているのかというように見えます。2つめはFly(フライ)で、問題を先送りしたり、逃げ出したくなります。資料室やトイレにいったきり自席に戻ってこないなどがこの兆候です。そして3つめはFight(ファイト)、つまり攻撃性です。普段は穏やかなのに、些細なことでも過敏に反応して怒ったり、理由もなく攻撃性が高くなったりします。

図: 「3F」に思い当たったら気をつけましょう

日常生活では、好きなはずのテレビ番組や趣味に関心がなくなったり、早朝に目が覚めて眠れなくなる睡眠障害、自分を責める気持ちが出てくることもあります。私たちは人間ですので、日によってはイライラしたり落ち込んだりするときもあります。しかし1ヶ月も続くようなら、うつ病(気分障害)を疑う必要があります。

ほかにも客観的に自分のストレス度(疲労蓄積度)を知る方法があります。厚生労働省のホームページには、ストレス度を知るための自己診断チェックリストがあり、Webブラウザ上でチェックできる総合判定プログラムも利用することもできます。クリックするだけですぐにチェックできますので、ぜひ試してください。

後半では、ストレスと上手につきあう方法についてお話したいと思います。

図: 厚生労働省のWebサイト「労働者の疲労蓄積度チェックリスト」から行える総合判定プログラム

(2006年9月19日掲載)

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