第5回
[後編]ワンセグ時代の携帯サイト ~ワンセグやWeb2.0で変わるケータイの未来
株式会社ゆめみ 代表取締役 深田 浩嗣 氏

株式会社ゆめみ
代表取締役
深田 浩嗣 氏
「パケット定額制」の普及により、携帯の世界でもネットの常時接続環境が一般化しつつあります。それと並行するかのように、携帯サイトの数も増加し、他との差別化が難しくなっています。そんななかでも、一部のサイトは、独自のサービスを打ち出すことで、多くのユーザーを惹きつけています。今回は、携帯サイト構築を専門に手がける株式会社ゆめみ代表取締役の深田浩嗣氏に、成功する携帯サイト構築の方法や、今後の携帯サービスの動向について伺いました。
ユーザーの要求がサイトを成長させる
新しい携帯サービスと今後のビジネスについてお話しする前に、弊社が関わった携帯サイトの事例を紹介しましょう。代表的な仕事のひとつに、女性向けモバイルコマースサイト「ガールズショッピング」のシステム構築があります。同サイトは「ガールズウォーカー」という日本最大級の携帯サイト内のショッピングフロアです。
このモバイルコマースは、月間数億円もの売り上げがありますが、そのヒットの要因をあげると、まず「誰も手を出していないマーケット」だったことがあげられます。サイト開設当初の2001年には、携帯向けショッピングサイトは僅かで、まして若い女性にターゲットを絞ったサイトはほとんど存在しませんでした。当時、潜在的なマーケットの存在に気づけたのは大きいと思います。
システム面では、他のサイトに先駆け「絵文字」にいち早く対応しました。携帯通信事業者ごとに異なる絵文字に対応したサービスは、今では珍しくありませんが、絵文字コードの違いを変換して表示するしくみは、弊社が開発したものです。実を言えば、絵文字のシステム開発は、地味で単調な作業を積み上げていく仕事で、技術的な面白みがあるものではありません。しかし、実は絵文字という携帯独自のツールはユーザーが最もこだわる部分なのです。これは、サポートに寄せられたメールや、掲示板の書き込みの分析で把握していたので、軽視はできませんでした。
ユーザー相手の商売では当たり前のことかもしれませんが、絵文字に注目した対応というのは、ユーザーの要求をきちんと把握し、応えていくという意味でとても大切なのだと実感しました。これは携帯向け全般のサービスにおいても重要なことだと思います。
未知数の可能性を持つWeb2.0
ユーザーがコンテンツを作っていくことについて前編でお話しましたが、現在、PCの世界では、Web2.0(※1)という考え方が大きなトレンドになっています。弊社でも、携帯サービスに今後どう取り込んでいくかを模索しているところです。
Web2.0の定義については諸説ありますが、従来のWeb上のサービスが、企業や個人が一方向的に情報を配信するのに対し、ユーザーの自由な発言や評価 がコンテンツを生み出していくような仕組みに関わる技術やサービスをWeb2.0と言うこともあります。ユーザーが知識を持ち寄り巨大な百科事典を形成する『ウィキペディア』や、商品のレビューが売買基準のひとつとなっている『アマゾン』などは、代表的なWeb2.0的サイトと言えます。
ユーザーの嗜好で細分化されたWeb2.0的な携帯サイトに多くのユーザーが集まるようになれば、その携帯サイトに対してピンポイントな広告展開が可能となります。たとえば、クラシックギターのファンが集まるコミュニティに、コンサートの告知を出すといった具合です。
弊社の取り組みとしては、まずユーザーをどう巻き込んでいくかという視点からスタートしています。それは、RSSリーダーだったり、ブログであったり、メールマガジンの発行スタンドだったりしますが、ユーザーの参加によってコンテンツを成長させていく点は、PCのWeb2.0的なサイトと共通しています。しかし、ユーザーの利用動向や要望によっては、今後は携帯独自のサービスが生まれていく可能性もあります。

- ※1 Web2.0とは、ユーザーの参加を前提としたWebサイトのあり方を指す用語。あくまで抽象的な概念であって、ソフトウェアや仕様などのバージョンを表すものではない。
ビジネスチャンス!?携帯サイトのメリットとは?
携帯には、PCとは異なった独自の決済や情報提供が可能であるという特徴があります。特筆すると携帯の公式サイトの課金代行サービスでは、有料サービスの代金を携帯の利用料金に上乗せして徴収できるため、クレジットカード番号の入力などによる決済を必要としません。最近では、非接触型ICカードを内蔵した携帯を使った電子マネーによる決済システムなども登場しています。こうした決済はPCでは実現できなかった方法です。
携帯独自の決済システムと連動した情報配信サービスも行われています。たとえば、オムロンが提供する「グーパス」(※2)では、非接触型ICカードを使用して駅の自動改札機を通ったタイミングで、ユーザーの携帯電話に乗降駅周辺の施設やグルメ情報、イベント情報をメールで届けます。その場所でしか得られない情報も出てくるのです。携帯ならではの決済方法や情報の提供方法が増えてくることは、携帯向けビジネスチャンスの到来でもあると思います。
- ※2 グーパスとは、オムロン株式会社が提供する、自動改札機連動型の情報配信サービス。改札の通過時に、ユーザーの状況や好みに応じた情報メールを携帯電話に転送する。
ワンセグの一斉同報通信性に注目
携帯向けの新しい情報の提供方法として、無視できないのはワンセグでしょう。ただし、ワンセグを活用したビジネスについては、まだどの企業も手探りの状態ではないかと思います。
そのようななか、弊社では、ワンセグにおける「一斉同報通信」性に着目しています。携帯メールでもリアルタイムな同報配信は可能ですが、秒単位の精度で何十万ものユーザーに情報を届けることはできません。これがワンセグだと、番組中に「今すぐこのサイトにアクセス!」といったメッセージを流し、サイトに訪れた視聴者同士でゲームを始めるという試みも可能になります。これは、サイトへのアクセス数増加を促すだけでなく、広告の新しいスタイルを誕生させるかもしれません。これはあくまでも一例ですが、特定の瞬間に、多くのユーザーに情報を配信できるのは、ワンセグならではの特徴ではないかと注目しています。
ただ、仮にこうしたサービスが可能になったとしても、いくつかの課題は残ります。これまでの携帯サイトへのアクセス数とは桁違いのワンセグの視聴者をサイトに誘導したとき、その負荷に耐えうるシステムを構築できるか、という技術的な問題です。また、サイマル放送(※3)という制度的な問題もあります。 2008年までは地上デジタル放送とワンセグは、同一の番組が放送される予定です。このため、ワンセグの視聴者にターゲットを絞った番組制作が困難な状況にあります。また、サイマル放送ではなくなった後には、テレビ局や広告代理店が絡んでいる「放送」というスキームのなかで、通信側にどれだけ自由が与えられるのかという課題も残ります。
ワンセグに限ったことではありませんが、システム構築会社として感じることは、携帯電話には、まだ制度や仕様などにいくつか制約があるということです。こうしたハードルをなくしていくことで、新しいサービスや便利なアプリケーションが生まれ、結果的にユーザーにとっても携帯電話の利用の幅が広がるのではないかと思います。
- ※3 サイマル放送とは 現行のアナログ放送とデジタル放送で、同一番組を同時に放送することを指す。具体的には民放のネット系列をまたぐ形で同時放送を行う場合、あるいはテレビとラジオで同時放送を行う場合のことを指す。デジタル放送への移行にあたり、現行のアナログ放送しか受信できない世帯がほとんどのため、アナログ放送とデジタル地上波で同じ内容を放送することが放送事業者に義務化されている。
編集後記
これまで携帯サイトにはコンテンツ制作とシステム構築という役割分担がありましたが、最近では、システムが直接ユーザーとの接点となり、システムを利用してユーザーが直接コンテンツを作っていくことも起きているようです。新しい携帯向けのシステムの1つにワンセグがあり、携帯でテレビ視聴を可能にするだけでなく、携帯でのネット利用を増加させるきっかけにもなります。利用者が増えれば、携帯サイトのサービスも充実し、さらに利用者を増やすという好循環も生まれます。さらに、深田氏はワンセグの「一斉同報通信性」に注目しており、メルマガの配信システムを手掛けてきた同氏ならではの指摘と言えます。ネット業界側から放送にも目を向けることで、放送とネットワークの新しい活用方法が生まれてくるのだと思いました。
(2006年6月13日掲載)
- ※ 掲載日以降、最新情報ではない場合があります。あらかじめご了承ください。




