第32回
[後編]森永卓郎が語るサバイバル経済学 ~生活設計と生きがい
経済アナリスト 獨協大学経済学部教授 森永 卓郎 氏

経済アナリスト
獨協大学経済学部教授
森永 卓郎 氏
少子高齢化が進み、年金の支給開始年齢の引き上げや支給額の引き下げが進行しています。医療制度も変わりつつあるなか、老後の生活に不安をかかえる人が増えてきました。どれくらいの蓄えがあれば心配のない老後を送ることができるのでしょうか。老後の生活に必要な資金や充実した人生の送りかたについて、前回に引き続き、経済アナリスト、獨協大学経済学部教授の森永卓郎氏にお話を伺います。
老後のために必要な資金を考える
前編では、生活費の3年分の貯金についてお話ししましたが、老後のためには、これにプラスして、1000万円から1500万円くらいの蓄えが必要になります。これまで、老後は年金だけで生活できると考えられてきましたが、少子高齢化が進む現代では、年金支給額に陰りが見えてきたからです。
老後の生活に必要な資金を考えると、貧困に陥らない最低限の生活をするのに、現役で働いてきた収入のせめて半分程度は確保する必要がありますが、しかし、たとえば、現在30歳の会社員で60歳までの平均給与が月額40万円の場合、年金の受給額は月額約17万円と、半分に満たない額になることが明らかになっています。社会保険庁のWebサイトでシミュレーションができるので、試算してみるとよいでしょう。さらに、年金被保険者の減少や平均寿命の延びなどの経済状況を背景に、給付金額を変動させる“マクロ経済スライド”というしくみによって、受給額が減額される可能性があります。さきほど述べた1000万円というのは、最低限の生活をするために穴埋めをするのに必要な金額ですので、できるなら、もう少し多く貯蓄しておくと良いと思います。
いまから20年くらい前までは、厚生年金の支給開始年齢は60歳でしたが、現在は65歳からとなっています。将来は、70歳や75歳からに引き上げられる可能性もあります。また、65歳からの年金を早めにもらう“繰り上げ支給”も申請できますが、その場合は、1カ月に対して0.5%の減額になります。逆に、年金を後からもらう“繰り下げ支給”を申請した場合には、1カ月に対して0.7%の増額になります。このため、支給開始年齢時に資金の余裕があり、健康で長生きできそうであれば、できるだけ繰り下げて年金をもらうようにすることをおすすめします。

「老後の沙汰も金次第」か?
かつての日本社会では、三世代以上が同居する大家族も多く見られましたが、最近では、核家族化が進んでいます。また、子どもを持たない夫婦も増えているようです。このため、自分がだれかの介護を受ける必要性が生じたときに、どうするかについても考えておく必要があります。そうなると、やはり心配なのは、老人ホームや介護施設などのお金の問題でしょう。
こうした施設には、入居金がゼロのものから、1億円程度かかるものもあります。この差の理由はおもに、施設の場所にあります。これは、都心の一等地に住もうとすると家賃が高くなるのと同じです。老後の生活でも、そんな場所ではなく、田舎の簡素な施設を選べば、年金だけでも暮らしていけます。都会と違って土地もあるので、周囲を畑にして、自分たちで野菜を育てられる施設もあります。そのほうが、食費も安くなり、健康にもよいでしょう。前編で「生活では見栄を張らない」ことが大切だと言いましたが、老後の生活でも同様のことが言えると思います。退職したら、早めに田舎に引っ越すのが、コツかもしれません。
お金と生きがいの関係
これまでは、“もしもの備え”など、お金に関する話題を中心にお話ししてきました。生活のためにお金は必要ですが、お金があれば幸せかというと、そうでもありません。私はこれまで、100億円の資産を持つ人とも話をしたことがありますが、お金持ちだからといって、幸せを感じているわけでもないようです。
私は、幸せや生きがいを感じるには、お金持ちになることではなく、趣味を持つことが大切だと思います。退職してやることがなくなったというお金持ちの人から、「生きがいがないので、どんな趣味をはじめればよいですか」と聞かれることも多いからです。本来、趣味とは人に相談したりすすめられたりするものではなく、とりあえず自分でやってみて、楽しいと思ったものが趣味になるのでしょうが、自分がなにをしたいのかすら、わからないという人もいるようです。
3年間1200円で楽しめる趣味もある
趣味にもさまざまあり、ゴルフや乗馬などお金のかかるものもありますが、逆にほとんどタダで楽しめるものもあります。私は現在、ペットボトルのフタやミニカーなど、53種類のコレクションを趣味としています。実はこれらのコレクションのほとんどには、お金はかかっていません。ペットボトルのフタのコレクションなどは変な趣味かと思われるかもしれませんが、並べてみると結構楽しめます。日本では1200種程度あり、どう頑張ってもすべて集めるまでに3年かかります。100円ショップで整理ケースを12個買うだけでよいので、3年間の出費は1200円と非常に経済的です。
「コレクションなんか、おもしろくないんじゃないか」と思うかもしれませんが、そんな趣味でも世界中にコレクターは存在しています。たとえば、アフリカや中近東のコレクターとフタを交換している人もいますし、私もパリの路上で、テレホンカードを並べている見ず知らずのコレクターと3時間も話し込んでしまったことがあります。現在では、Webサイトやメールを通じて、共通した趣味を持つ世界中のコレクターとコミュニケーションもできるので、単なるコレクションの域を超えた楽しみ方ができるのです。
私は、今はコレクションで商売をしようとはしていませんが、目利きができれば、趣味で稼ぐことも可能だと思います。生きがいとしての趣味が、生活の糧にもなれば、老後の人生も充実するのではないでしょうか。最後に、自分がどんな趣味を持てばよいのかわからないという人も結構多いようなので、そんな人たちのために、お金のかからない趣味を集めた本を紹介しておきます。本を参考に、生きがいを見つけて幸せになっていただけるとよいですね。

編集後記
ほとんど蓄えのないまま、いまの暮らしだけにお金を使っている人もいるかもしれませんが、将来のことを考えると、ある程度の貯金は必須です。しかし、お金さえあれば幸せになれるかというとそうでもなく、仕事がなくなっても暮らしを楽しめる趣味を持つことも大切です。お金を蓄えることも趣味を作ることも、先行きの見えにくい現在と将来を乗り切るための備えなのかもしれません。
(2008年8月6日掲載)
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