第15回
[後編]「脳トレ」でビジネスに勝つ! ~戦略脳の身につけ方
東北大学加齢医学研究所 第一ビジネスユニット 脳機能開発研究分野 教授
川島 隆太 氏

東北大学加齢医学研究所
脳機能開発研究分野
教授 川島 隆太 氏
生活家電や乗り物など、便利なモノが増え、昔のように体を動かす必要がなくなった現代では、運動不足による生活習慣病が問題となっています。同様に、脳を使う機会が減ると、脳の機能が衰えることも知られるようになりました。「「脳トレ」でビジネスに勝つ! 」後編となる今回は、ビジネスで生き残るために、脳をどのように鍛えればよいのか、前編に引き続き、東北大学加齢医学研究所脳機能開発研究分野教授の川島隆太氏にお話を伺いました。
ビジネスに必要な戦略脳とは
今回は、ビジネスに必要な能力である「戦略脳」を得るにはどのように鍛えたらよいかをお話しします。私は脳を鍛えるためのゲームやドリルのほかに、ビジネス向けの「脳トレ手帳」を開発しました。この手帳の特徴は、他のドリルとは異なり、書くことや記憶することだけでなく、計画するという習慣を身につけることで、脳の前頭前野を活性化させ、戦略脳を身につけることを目指している点です。戦略脳を持つことで、目先の仕事だけを処理する受動的な人から、企画を立案し、職場で他人をリードしていく能動的な人に変わることができます。

手書きが脳を活性化させ、ひらめきは記憶から
まずは、戦略脳を身につけるのに、なぜ「書く」ことが重要なのかについてお話ししたいと思います。書くということは、筆記用具を使って手で書くことです。パソコンやケータイのキーボードで入力することではありません。キーボードを押す動作と紙に文字を書く動作は、運動としてはさほど変わりはありませんが、脳の活性という意味ではまったく異なります。キーボード入力の場合はスペースキーを押すだけで文字が出てきますが、手書きの場合、漢字を頭の中で思い出してから書く必要があるため、脳の前頭前野が大きく活性化されるのです。
もちろん、仕事でパソコンを使っているのであれば、すべてを手書きにするのは無理かもしれません。しかし、会議ではメモ書きを行うようにしたり、企画を考えるときに手書きでイメージをまとめたりすることによって、脳が活性化され、新しいアイデアが生まれやすくなるでしょう。
「記憶力」という点でも、何かを覚えるときには、脳の前頭前野を使っています。記憶を思い出すときには、脳の別の部分を使いますが、思い出した記憶を統合するときには、また前頭前野を使用します。ひらめきは、記憶という膨大なデータベースの上にあるものなので、ビジネスでよいアイデアを出すには、前頭前野が活性化している必要があります。このためのトレーニングとして身近なもので言うと、昨日やおととい、あるいは1週間分の食事メニューを思い出すなどがよいでしょう。
計画力は能動的な戦略脳につながる
次に、戦略脳に必要な「計画力」について説明します。計画力とは、予定を考える能力のことです。これは人間にしかできない行為で、予定を考えるときには、前頭前野が活性化されます。計画力は、ビジネスを成功させるためには不可欠な要素で、計画力を持たない人は、いつまでたっても組織の歯車の1つという受け身の立場でしかありません。
計画力を身につけるには、自分や会社の将来を思い描き、具体的に予定を立てることが有効ですが、その習慣のない人には難しいことです。そんな場合には、身近な予定から立ててみて、そのクセをつけるようにすればよいと思います。例えば「脳トレ手帳」では、明日何を食べるかを考えるという簡単なトレーニングを行うことから、計画力を身につけられるようにしています。
計画するクセがついたら、自分自身や、自分の属する会社、部署などの将来を考え、その夢の実現には何をすべきなのかを考えるようにします。1年後の計画でも10年後の計画でも構いませんので、人それぞれに考えればよいでしょう。ちなみに私の場合は、5年後に自分や研究チームが何をしているかを考えるようにしています。というのは、科学分野では、10年単位で考えると、技術的なブレークスルーによって計画が無意味になる可能性が高いからです。また、日常生活では、1週間程度先の計画を考えるようにしています。
脳を活性化させるオフタイムの過ごし方
このように、ものを書くこと、記憶すること、計画する習慣を身につければ、脳の前頭前野を活性させ、ビジネスに必要な戦略脳を身につけることができます。最後に、仕事とは離れて、休日の過ごし方という別の切り口から、前頭前野を活性化させる方法についてお話ししたいと思います。
休日に前頭前野を活性化させる方法は3通りあります。まずは、読み書き計算をすることです。関心のあるジャンルの本を読む、日記などの文章を書いてみる、電卓を使わず計算をしてみることです。次に、人とのコミュニケーションを持つことです。職業柄、人と接する機会が少ないのであれば、休日には積極的に家族や友達と会話するようにしましょう。そして、最後の3つめは、指を使って何かを作ることです。何を作るかは、日曜大工やパソコンを自作するなど、自分の趣味で決めるのがよいでしょう。

編集後記
ラクをすればするほど、運動不足になってしまうということは、体だけでなく脳にも言えます。脳の運動不足を解消するには、書くこと、記憶すること、計画することで、脳をトレーニングし、戦略脳を培うことが必要です。上司や客先から求められたことだけをこなす受動的な仕事をするだけでなく、能動的な戦略脳を持つことが、ビジネスチャンスを生かし、成功するためのポイントと言えそうです。
(2007年3月27日掲載)
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