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第15回

[前編]「脳トレ」でビジネスに勝つ! ~脱・受け身思考から始めよう

東北大学加齢医学研究所 第一ビジネスユニット 脳機能開発研究分野 教授
川島 隆太 氏

写真: 川島 隆太 氏

東北大学加齢医学研究所
脳機能開発研究分野
教授 川島 隆太 氏

科学や医学の進展によって、脳のしくみは解明されつつあります。脳をトレーニングすることで、認知症などの脳機能の低下を抑えられることもわかってきました。今回は、脳機能研究の専門家で、脳を鍛える「脳トレ」ゲームやドリルの開発でもおなじみの、東北大学加齢医学研究所脳機能開発研究分野教授の川島隆太氏に、現代の脳が置かれている状況についてお話を伺いました。

脳機能計測結果にもとづくドリル

私は、東北大学で脳活動の科学研究を行っています。ヒトの脳と心の関係を研究しながら、ヒトは何のために存在するのか、ヒトはどこへいくのかといった、自然科学、人文科学にとっての永遠の命題を解くことを目標としています。さらに、脳科学の立場から、教育や福祉といった分野へのアプローチも行っています。

研究の一例としては、脳の血流の変化を測る機器で脳機能を計測し、人が考えたり行動をするとき脳のどの部分を使用しているかを分析しています。これにより、単純な計算や音読といった作業で、脳の前頭前野という部分が活性化されることがわかっています。私は、こうした脳機能計測の結果にもとづき仮説を立て、前頭前野を活性化させることが、企画力や戦略力にも結びつくと主張しています。

図: 前頭前野の活性化で、企画力や戦略力を向上させる

また私は、大学の研究で得た成果は、できる限り社会に還元するべきだと考えており、産学連携の活動も行っています。その一例が、脳を鍛える「脳トレ」ゲームやドリル、手帳などです。「脳トレ」のツールを開発したきっかけは、コンピューターなど科学技術の発達や社会環境といった、さまざまな原因によって、現代人の脳が衰え始めるのではないかと感じていたことです。

脳の退化が始まる!?

現代人の脳が衰え始めると考えた原因の1つとして、まず、コンピューターが脳に与える影響についてお話ししたいと思います。以前、脳機能に関する研究を行っている際に、偶然発見したのですが、「コンピューターを操作しているときは、脳があまり働いていない」ということがわかりました。当初信じられなかったのですが、測定を続け、データが増えるに従って、その傾向はより一層明らかになりました。

コンピューターを使うと脳があまり働かない理由は、エスカレーターと階段のどちらが、体を使うかということと一緒だと考えてよいでしょう。乗り物を使う方がラクだからと、エスカレーターやエレベーターばかりを使っていると、足腰がなまってしまい、全体の体力も弱くなってしまいます。脳の力にも同じような影響があり、意識して使うようにしないと衰えてしまうのです。

恐ろしい話かもしれませんが、この調子でコンピューターへの依存がどんどん強くなっていくと、脳の退化が始まると私は考えています。おそらく、200~300年先の人の脳機能は、現代の私たちと比較すると衰えているのではないかと思います。もちろん、これは“脳はなるべく使った方が良い”という現在の私の価値観にもとづく予測で、200~300年先になんらかのブレークスルーがあり、まったく異なる価値観が生まれていれば、現在の私の危惧も意味がなくなるかもしれません。しかし、現時点では、脳が退化するという非常に危ない方向に進んでいるのではないかと強く感じています。

ITによる脳への影響と弊害

例えば、電子メールが浸透するようになった昨今では、メールの方がラクだからと電話をしない、ときには、隣の席の人にさえメールで用件を伝える、などということが普通に行われるようになってきたようです。元来、人と人との直接的なコミュニケーションには、相手の表情や感情を読み、反応を探りつつ会話を進めるなど、さまざまな情報を処理するために、意識しなくても自然に脳を活発に働かせる要素がありました。しかし、そうしたことが面倒だからと、メールだけに頼ってしまうと、脳を使う機会が減り機能が衰えていってしまうことになります。

図: ITに頼り過ぎると、脳機能が低下する危険性がある

こうした危険性に気づき、ITへの依存をできるだけ減らしていこうと努力を始めた企業もあります。とある大手自動車メーカーでは、必要なところではITを活用しながらも、ITを使わなくてもできる業務などでは、逆に脱IT化を図っています。これまでメールで済ませていた相手には電話をする、電話をしていた相手には会いにいくというように、特にコミュニケーションにかかわるところでは脱IT化を積極的に進め、全社的に取り組んでいるようです。複雑な計算処理や自動車の製造は機械に行わせる一方、コミュニケーションは人間同士、直接行うことを推奨しているのは、先見の明があると私は思います。

社会環境と脳の関係

次に、現代人の脳が衰え始めた原因の2つめとして、社会環境が与える脳の影響についてお話しします。人間は、他の動物とは違って計画を立てられるという能動的な面と、低きに流れ、他人の指示に従っていた方がラクだという受動的な面の2つの側面を持っています。私が教えている大学生を見ると、ほとんどが受動的です。要求したことは期待以上にこなす能力を持っていますが、自分で考えて動く学生は少数です。現代社会の大人たちの成長過程を顧みると、子供の頃に夢や自分の将来を考える間もなく、目先のことを処理することに追われながら、そのまま大人になってしまった人が多いと思います。受け身な人が増えたのはこの影響が大きいのではないでしょうか。受動的な生活が増え、能動的に物事に取り組もうとする人が減ったように見えるのは問題だと感じています。能動的であるということは、当然ビジネスでも物事を有利に運ぶことができるようになるでしょう。私は、ビジネスに必要な能動的な脳を「戦略脳」と呼んでいます。
もちろん、受動的になってしまっている人であっても、ちょっとした工夫やトレーニングを行うことで、能動的になることができます。その有効な方法として、計画力を身につけ、ものを書き、記憶をすることがあげられますが、これらについては後編でお話ししたいと思います。

(2007年3月13日掲載)

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注) 出典: 日経コミュニケーション2008年9月1日号ブロードバンド/モバイル/NGN時代の企業ネットワーク実態調査「広域イーサネット部門」で「KDDI Powered Ethernet」が7年連続第1位



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