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第8回

[後編]勝てるプレゼン術 ~発表編

アーサー・リリーコンサルティング代表取締役 デジタルハリウッド大学助教授 武蔵野大学非常勤講師 長田 有喜 氏

写真: 長田 有喜 氏

アーサー・リリーコンサルティング代表取締役
デジタルハリウッド大学助教授
武蔵野大学非常勤講師
長田 有喜 氏

プレゼンが製品マニュアルと異なるのは、そこに「人」という要素が介在している点にあります。発表者は単なる説明係ではなく、自身のパフォーマンスで製品の信頼性、企業イメージを最大限にアピールする役割を担っているのです。後編となる今回は、プレゼンの本番にあたる「デリバリー(発表)」のポイントについて、アーサー・リリーコンサルティング代表取締役の長田有喜氏にお話を伺いました。

第一印象で信頼をアピールする

前編でお伝えしたように、プレゼンは「1.シナリオ」「2.ドキュメンテーション」「3.デリバリー」の3つのフェーズで構成されます。日本人の場合、1や2のフェーズはそつなくこなせても、3のデリバリー(発表)はどうも苦手、という方は多いのではないでしょうか。

デリバリー、つまり実際にプレゼンを出席者の前で行うフェーズでは、“最初の30秒”が成否に大きく影響するといっても過言ではありません。初めの「つかみ」が大切なのです。つまり、いかに相手の興味を惹いてこちらの話に聞き入ってくれるか、ということです。心理学者メラビアン※によれば、情報の伝達は服装や立ち居振舞いなどの視覚情報と声の質や話し方などの聴覚情報によるところが大きいと言われています。つまり、出席者とのファーストコンタクトでは、自分がビジネスパーソンとして信頼できる人間であることを、第一印象でアピールする必要があるのです。これには、自分の外見を、日頃から意識して、イメージ作りをしておくことが大切でしょう。

発表時で一番大切なことは、自分の言葉で語りかけることです。ディスプレイや、スクリーンを見続け、出席者に背を向けてしまったりするのはNGです。堂々と相手の目を見据えて、一人一人に話しかけるようにしない限り、相手は話に夢中になって聞いてくる、ということはありません。

また、これは真面目な方に多いのですが、事前に用意した原稿を読み続けるのもNGです。原稿を読むということは、発表者にそのつもりがなくても、結果的には伏し目がちになります。さらには、言葉に気持ちがのらない、台詞が棒読みになる傾向があります。これでは、たとえ内容が優れていても、説得力のあるプレゼンにはなりません。

図: プレゼン時にやってはいけないことの例

  • ※ メラビアンの法則とは、アメリカの心理学者メラビアンの行った実験結果から導き出された法則で、話者が聴衆に与えるインパクトには、3つの要素があるとし、それぞれの影響力を具体的な数値で表すもの。55%がVisual(視覚情報:見た目・表情・しぐさ)、38%がVocal(聴覚情報:声の速さ・大きさ・口調)、7%がVerbal(言語情報:言葉そのものの意味)となる。

聞き手との間に、双方向コミュニケーションの回路を作る

プレゼンを続けていくうちに、あなたは自分が無表情な聴衆に囲まれていることに気づくことはありませんか。日本人の特徴のひとつなのですが、リアクションのない能面のような表情で座っていることがあります。こんなときはまず皆の気持ちを和らげ、出席者の雰囲気をアクティブにする必要があります。これは「Ice-Breaking(アイスブレーキング)」といい、出席者の氷った顔や心を溶かしていく作業です。

アイスブレーキングの効果的な方法のひとつは、出席者全員に向かって質問を投げかけることです。プレゼンの冒頭で“こんな経験のある方はいらっしゃいませんか?手を挙げていただけますか?”と聴衆参加型の質問をしてみてもよいでしょう。何人かが手を挙げたり、問いかけに答えたりすると、場の空気が和んできます。すると、聞き手と話し手の距離が縮まり、あなたの発言に対してうなずいたり、自然と感嘆の声をあげたりする人が増えていくことでしょう。

また、発表者の目線の動きも、雰囲気をアクティブにするのに一役買うことがあります。これは会場の広さにもよりますが、目線を「W」型に移動することで、出席者全員に話しかけているような効果を得るというものです。

図: 目線はW型に移動させる

また、そうやって目線を動かしているうちに、うなずきながら話を聞いてくれる人がいるのに気づくでしょう。そのような“うなずきサン”を見つけられればしめたものです。そのうなずきサンに向かって話すことにより、全員に対して気持ちのこもったスピーチができるようになるからです。

うなずきサンが見つからない、無表情な“能面サン”しかいない、という場合でも慌ててはいけません。能面サンの中には、こちらをじっと見つめながら話を聞いている人がいるはずです。その人に照準を合わせて話しかけていくうちに、次第に笑顔やリアクションが生まれ、うなずきサンに変化していきます。その場にいなければ、自分でうなずきサンを育てればよいのです。

いずれにしても、出席者と目線を交わしながら話すことが大切です。どんな美辞麗句を並べたてるより、相手の目を見て話すことの方が多くのことを伝えられるからです。そしてプレゼン後、出席者にポジティブな余韻を与えられれば、心からの拍手をもらえることもあるでしょう。

図: プレゼン出席者とコミュニケーションを取るコツ

質疑応答は敗者復活のチャンス

プレゼン終了後は、たいていの場合、質疑応答の時間が設けられます。思うようなスピーチができなかったときは、ここを挽回のチャンスと考えてください。質問に対して、誠実な回答ができれば、相手に好印象を与えることができます。また、実際に取引するうえでも“この人なら丁寧に対応してくれるはず”と思わせられるのです。

ここで注意すべきは、聞き手の中には必ずといってよいほど、想定外の質問をしてくる人がいることです。その人は、製品のデメリットや問題点を的確に指摘してきますが、うまくやり過ごそうとしたり、煙にまいて逃れようとしてはいけません。その質問者こそ、プレゼン成功の鍵を握るキーパーソンであることが多いのです。鋭い質問への回答は、出席者の誰しもが聞きたがるものです。つまり、適切な回答を与えて質問者を納得させられれば、出席者全員の信頼を勝ち得ることができるのです。

といっても、質問に対する答えがすぐには出てくるとは限りません。そんなときは決して立ち往生したりせず、「それはいいご指摘だと思います」などの言葉で間をつなぎながら回答を考えます。「確かにそういう面もありますが、逆にこういう事例もあります」と質問に関する別の具体例を挙げるのもひとつの手です。“話のすり替えでは”と思われるかもしれませんが、その話題が具体的かつ有益な情報でありさえすれば、相手は納得してくれることが多いのです。

どうしても自分で回答できそうにない質問であった場合は、「その点に関しまして、私より詳細を知る者が社におりますので、後ほどその者よりご回答させていただけますか」と回答を保留するなどしてください。さらに「私が責任をもって伝えます」と最後に一言付け加えてもよいでしょう。

自分は情報を伝える使命をもったプロである

さて、これまでプレゼンの技術についてお話してきましたが、発表者の心構えはより大切だと考えています。「自分は情報を伝える使命をもっている」というプロ意識こそが、聞き手の心に響くプレゼンの原動力だと思います。では、どうすればプロ意識をもてるのか、という声が聞こえてきそうですが、プロ意識はすべての人が元々もっているものだと思います。それをどう表現するかを戸惑っているだけの話なのです。

さらに欲を言えば、基礎を身につけたうえで、自分らしいプレゼンができるようになってほしいとも思います。もちろん、最低限のビジネスマナーは守るべきですが、自分を押し殺して違う人間になろうとしても無理が露呈し、不自然になってしまうでしょう。むしろ、自分の言葉で伝える方が、相手の心に響くはずです。

最後に、どうしても緊張してしまう、という人へのアドバイスをご紹介します。プレゼンは決して上手にやろうと思わないことです。その代わり、相手が知りたがっていることを誠意をもって伝えることに集中しましょう。この“伝えよう”とする気持ちに素直になれれば、緊張しすぎることを回避できるはずです。まずは相手に納得・共感してもらうことを最優先に考えてください。“あの人のプレゼンの話は興味深い”“次にすすめたい”と思わせることができれば、それはプレゼン成功の第一歩なのですから。

図: 発表時に押さえるべきポイント

編集後記

これまでのプレゼンに関する講座には、話し方のマナーやプレゼンソフトの使い方に関するものが多かったと思います。しかし、勝つためのビジネスプレゼンテーションには、それだけではない、もっと大切な勘所がありました。
わたしたちが本当に知りたかった、どうすれば説得力のあるプレゼンができるのか?どうすれば余計な緊張をせずに堂々とプレゼンができるのか?どうすれば相手を納得させ、Goサインの出るプレゼンができるのか?
そんなプレゼンの秘訣に、やっと出会えたのではないかと思います。

(2006年9月5日掲載)

  • ※ 掲載日以降、最新情報ではない場合があります。あらかじめご了承ください。

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注) 出典: 日経コミュニケーション2008年9月1日号ブロードバンド/モバイル/NGN時代の企業ネットワーク実態調査「広域イーサネット部門」で「KDDI Powered Ethernet」が7年連続第1位



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