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第22回

[中編]清水國明の自然体験のススメ ~アウトドアライフの本質

株式会社ワークショップリゾート 株式会社自然樂校
代表取締役社長 アウトフィッター 清水 國明 氏

写真: 株式会社ワークショップリゾート 株式会社自然樂校 代表取締役社長 アウトフィッター 清水 國明 氏

株式会社ワークショップリゾート
株式会社自然樂校
代表取締役社長 アウトフィッター
清水 國明 氏

空調や照明がコントロールされた清潔な都市空間の中で、自然からの刺激を受けることが少ない生活をしていると、人間が本来持っていた自然への対応能力が失われていってしまいます。こうして、子供らしいはつらつさが消えてしまった子供や、忙しさを楽しむことのできない大人が増えているようです。“清水國明の自然体験のススメ”中編となる今回は、自然体験を通じて人間の本能を呼び起こす手法やアウトドアライフの本質について、前回に引き続きアウトドアの達人としてもご活躍中のタレントの清水國明氏にお話を伺いました。

本能を取り戻す「自然育」とは

不自由さや危険のない都会の生活では、本来人間が自然に感じていた暑さや寒さなどの感覚が薄れ、五感が鈍り、心身の健康が損なわれてしまうおそれがあります。自然の中での自由な活動を通じて子供の健康を取り戻そうとするのが、私の考える「自然育」です。学校の授業のように、動植物の名前を子供たちに教えたり、自然の中での遊び方を教えてあげるだけでは、子供たちの中に眠っている“アウトドアの達人”のスイッチを入れることはできません。「自然育」ではその感覚を取り戻す手伝いも行っています。

河口湖の森で開校している「自然樂校」にも都会暮らしの多くの子供たちが参加してきます。来たばかりのときは、シャンプーのいいにおいがして、日焼けもしていない人形のような青白い子供たちが多いのですが、さまざまな“ワーク”を行っていくうちに、だんだん変わっていきます。たとえば、自然の音を聞く“ワーク”では、最初にどんな音が森から聞こえるかを話してもらいます。セミがけたたましく鳴いていて、それに負けじと鳥の鳴き声も聞こえるようなときでも、最初のうちは、その鳥の鳴き声を聞くことができない (気づかない) 子が多いのです。テレビやゲームに夢中になっているときには、大人でも話しかけられたことに気づかないことがありますが、これと同じように、関心が別のところにあるので、セミや鳥の鳴き声を聞くことができないのです。都会では、こうした鳴き声に無頓着でも生活していけますが、自然の中では、ガサっという下草の音や、ザワザワとする笹の音などを聞くことができないとヘビやクマなどから身を守ることができなくなってしまいます。自然と遊ぶことで、人は本来の能力を呼び覚ます五感を研ぎ澄ますことができるようになります。

音を聞く“ワーク”では、自然とふれあったことのない子供たちを森の中に連れて行き、落ち葉のベッドの上で一緒に寝ころび、背中を地球にべったりとつけて目をつぶり、15分間周りの音を聞いてもらうのですが、何回か繰り返すうちに、鳥の鳴き声を聞くことができなかった子供たちも、こずえを渡る風の音が聞こえたとか、枯葉の中を走る虫の足音が聞こえた、地球が動く音が聞こえた、森のささやきが聞こえた、というように、さまざまな音が聞こえるようになってきます。

写真: 森の声を聞く (手前は清水國明氏)

ほかには、斜面を駆け下りる“ワーク”などもあります。最初は怖がっている子供たちも、後ろからクマが来た! イノシシが来た! などと言って、私が真っ先に走り出すと、追いかけてきます。斜面の上まで駆け上がってまた下りて、を繰り返していると、血の巡りがよくなって顔がだんだん赤くなり、鼻水が出てくる子もいて、だんだん本来の子供くささが出てきます。自然の中で体や心を動かすうちに、五感が戻り、本来の子供らしさが戻ってくるのです。

私は今、ツリーハウスに住んでいるのですが、森のささやきが聞こえたという子の気持ちが私にもだんだんわかるようになってきました。森の木を切ろうとしたり、クギを打ったりするとき、『切るな』とか『クギを打つな』とかいう木の意思が感じられるようになり、「ごめんね」と言えるようになりました。木も魚も生きているものを粗末に扱ってはいけない。どうしても切らなければならない、食べなければならないときには、感謝しつつ大事にさせてもらうという気持ちを、私は、森のささやきが聞こえたその子供から教えてもらったと思います。都会に暮らしていると、自然の恵みや先祖に感謝するというような気持ちは薄れてきます。しかし、かつて私たちの祖先も自然現象や動植物などにさまざまな神を感じていたと言われるように、自然の中で生活をすると、そうしたことが、文字通り“自然に”感じられるようになってくるのではないかと思います。

忙しさを楽しみに変える

子供時代に自然を感じる機会を持てなかった大人も多いようです。子供の場合は、自然との接触を妨げるバリアがまだ薄いので、本能が出てきやすいのですが、大人になると固く閉ざされてしまうので、感覚を取り戻すのはなかなかに大変です。ちなみに子供時代に自然を感じるスイッチが入らなかった大人を、私は「子どな」と呼んでいて、「自然樂校」では「子どな」向けの研修も行っています。

仕事に忙殺されて日常生活を送っていると、忙しいことをストレスに感じる人もいます。そのような状態になると、心身が疲れ、やがては支障を来たすことにもなります。改善しようとして、休暇を取り自宅で休んでいても、なかなか回復せず、かえって悪化してしまうこともあるようです。なぜそうなってしまうのかを考えてみると、人間には五感などのさまざまな能力があって、自然の中ではそれらの能力がバランスよく使われるのですが、都会の暮らしや職場では、たとえばパソコンとずっと向き合うことで視覚だけが、他の能力の何倍も使われるというように、ある能力だけが偏って使われる傾向があるようです。こうした状態が続くと、やがて心や体の健康のバランスが崩れていくことになるのではないでしょうか。また、自宅で静養すると、仕事のストレスからは解放されるかもしれませんが、刺激を受ける機会もなくなってしまうので、余計にバランスを崩してしまい、かえって症状を悪化させてしまう場合も出てくるようです。

そこで大人向けの「自然樂校」では、忙しさをストレスとして感じるのではなく、楽しいと感じられるようになる“ワーク”を行います。自然の中で暮らすには、早朝から魚を釣ったり、木を切って家を建てたり、まきを割って火をおこし、料理を作ったりと、非常に忙しく“仕事”をすることになります。しかし、不思議なことに、この自然の中での“仕事”や“忙しさ”に、都会での仕事のようなストレスを感じることはありません。こうして、自然の中の活動を通じて、忙しいことは、実は楽しいことなのだということを実感し、「忙楽しい (いそたのしい) 」を体得できれば、忙しさをストレスと感じることなく、仕事を楽しめるようになると思います。

こうした「子どな」向けの研修で、忙しく働いてもらうことで、実は、森作りのお手伝いもしていただいています。森作りは、子供や「子どな」が自然とふれあうための施設作りです。自然の中の活動も、単に自分のためだけに行っていると、だんだん世界が狭くなっていってしまいますので、皆のための森作りに協力してもらって、その森で子供たちが自然とふれあい、たくましくなっていくことを思いながら、心を豊かにしてもらおうと思っています。

アウトドアでの3つのルール

このように、自然の中での体験は、人間にとってさまざまなメリットがありますが、アウトドアを楽しむためには、いろいろ道具が必要だと思う人が多いようです。「自然樂校」での最初のオリエンテーションでも説明しているのですが、“have”ではなく“do”、つまり持つことではなく、行動するということがアウトドアの基本です。

どういうことかと言いますと、いろいろなアウトドアグッズを用意すると便利で“ラク”ができますが、それを突き詰めていくと、家の中にいるのと変わらない便利で“ラク”なアウトドアライフになってしまいます。本来のアウトドアは、何でも自分で作ること、つまり衣・食・住・遊を自分で作り出していくことがアウトドアライフの原点だと思います。与えられたもので“ラク”ばかりをしていると、本に書いてあるような“それっぽい”感動は得られても、それまでに感じたことのないような本物の感動を得ることはできないと思います。“ラク”という言葉は「楽」と書きますが、“ラク”と楽しいは違います。いかに“ラク”をするかということを考えると、楽しさはどんどんなくなっていきます。苦しいときのほうが、楽しかったと思うことは、だれもが感じることではないでしょうか。

アウトドアを楽しむには3つのルールがあります。それは、「自己責任」と、「自修自得」、「自他自由」です。「自己責任」とは、何でも自分の責任で行うということです。たとえば天候や他人のせいにせず、何でも自分の責任だと考えることです。そして、「自修自得」とは、人に頼らずに自分自身で楽しむことです。最後の「自他自由」とは、自分の自由も相手の自由も認めて受け入れるということです。このルールさえ守れば、アウトドア雑誌から抜け出したように、アウトドアグッズを全身にまとって、お決まりのキャンプ場などに行かなくてもよいのです。キャンプ場に着くなり、購入したばかりのアウトドアグッズのパッケージをはがしている人をよくみかけますが、毛布やヤカン、食器などは普段使っているものを家から持ってくればいいのです。アウトドアの達人になると、それらも自然の中から調達し、あるいは作り出してしまうでしょう。アウトドアの達人とは、キャンプ道具をいっぱい持っている人ではなく、ナイフ1本で何でもできるような人です。

図: アウトドアを楽しむ基本ルール

“have”からアウトドアに入ってしまうと、自然を楽しむというより、いろんなものを買うことが目的になってしまい、気づいたら都会の快適な暮らしをアウトドアに持ち込んでいるというようなことになってしまいます。“ラク”を突き詰めていくと、ベッドで寝ているのが一番だということになってしまうのです。知らず知らずに“ラク”を求めてしまうこうした傾向は、人間にとってとても危険なことだと思います。私も周囲の人からよく「何で河口湖に行ったの? 」「スイッチ1つでヒーターがつくのに何でまきを割るの? 」などと聞かれることが多いのですが、それは“ラク”になることが、寝たきりの状態に近づくことだということを私が実感しているからなのです。

「自然樂校」では、さまざまな講座を開講していますが、どの講座でも最初に火おこしを体験してもらいます。人間はサルや他の動物と違い、唯一、火をコントロールできる生き物です。人間の本能を呼び起こすためには、火や煙と接することがとても大切なことだと思います。火のおこし方自体は100通りくらいあるのでどんな方法を駆使してもらっても自由ですが、とにかく火をおこすことができ、その火を自由にコントロールできるようになって初めて、サルではなく人間だと言えるのではないかと思います。同様に、人間は道具を使いこなすことができますが、まずは刃物が使えるようになることが大切だと思います。

次回は田舎暮らしの方法や、都会の中で自然と暮らす方法についてお話ししたいと思います。

(2007年10月17日掲載)

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注) 出典: 日経コミュニケーション2008年9月1日号ブロードバンド/モバイル/NGN時代の企業ネットワーク実態調査「広域イーサネット部門」で「KDDI Powered Ethernet」が7年連続第1位



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