第24回
[前編]インターネット大学の可能性 ~教育の機会均等に向けて
サイバー大学学長
工学博士 吉村 作治 氏

サイバー大学学長
工学博士 吉村 作治 氏
大学へ行って知識や教養を身につけたい、興味のあることをしっかり学びたい、一流の先生のホンモノの講義を受けてみたい…、そう思ってはみても、時間や地理的な制約、あるいは、ハンディキャップなどの事情によって、これまで大学に通うことは、それほどやさしいことではありませんでした。今回ご紹介する「サイバー大学」は、インターネットをとおして、いつでも、どこからでも受講でき、スクーリングの必要もなく卒業できる大学として、2007年4月に開学しました。このサイバー大学の設立を推進され、初代学長に就任された吉村作治氏に、サイバー大学創設の経緯やインターネットを利用した教育の可能性などについてお話を伺いました。
大学設立の背景
私は現在、今年4月に開学したサイバー大学の学長を務めています。サイバー大学はインターネットを通じてオンデマンドで講義を受講できる日本初の大学です。これまでも通信制の大学はありましたが、スクーリングなどで数回は大学に行く必要があり、時間や距離的に都合がつかない人は通うことができませんでした。しかしサイバー大学では、仕事などで忙しい人や、地方や海外に住んでいる人でも、大学卒業の資格である学士の学位を、通学せずに取得することが可能となります。
実は私はサイバー大学を設立する以前から、ネットワークで遠隔地と結んで講義を中継することは行っていました。しかし、講義のライブ中継では教員と学生が同じ場所にいる必要はなくなるものの、講義の時間帯は決められてしまうため、時間の都合がつかない人は受講できないという欠点がありました。そこで、講義を録画して、いつでも好きなときに受講できるオンデマンド方式に切り替えました。これを発展させ、インターネットをとおしてすべての講義を受講できる完全通信制の大学をつくれば、多くの人に教育の機会を提供できると思っていたのですが、法的な制約があり完全通信制の大学をつくることは不可能でした。
そんな思いを抱えていた頃、特定の地域で規制緩和を行い地域社会と経済を活性化させる「構造改革特別区域法」が施行されました。この法律による経済特区を利用することで、株式会社立による完全通信制の四年制大学を設立する道が開けました。しかし、株式会社立の大学を積極的に誘致しようとする地方自治体にはなかなか巡り会えませんでした。苦労はしましたが、結果的には大学設立に前向きだった福岡市を本拠地にサイバー大学を設立することができました。株式会社立にこだわった理由は、本来、教育機関は独立した存在であるべきだと考えていましたので、できるだけ外部からの援助に依存せず、経理や財務も透明化して運営していきたいと考えたからです。

自由な就学スタイルが現代流
サイバー大学では、インターネットを通じて講義をVOD (ビデオ・オン・デマンド) で受講できるという特長以外にも、スムーズな学習をサポートするメンターや実践的なインターンシップ、スキルアップにも役立つ豊富な科目外プログラムなど、株式会社立ならではのサービスが提供されます。もちろん、正科生として4年から最長12年以内に卒業単位を取得すれば学士の学位を得ることができますし、「科目等履修生・特修生」として受講したい科目だけ履修することもできます。IT総合学部と世界遺産学部の2学部があり、IT総合学部は最先端の情報技術と実際のビジネスについて学べ、世界遺産学部では文明や文化、地球環境への理解を深めて観光事業や環境保全活動などでも活躍できる能力を身につけることができます。
現在の学生の比率は、6割が社会人で2割がシニア、1割が高校新卒という構成です。6割を占める社会人の多くは、スキルアップやキャリアアップを目的として学んでいます。高校卒業後すぐに就職し経験を積み、あらためて基礎的な原理を知ることの必要性に気づいたという人や、情報技術を学び起業したいという人などが入学されています。ちなみにサイバー大学では講義の出席率は86%と高く、一般の大学と比べ学生の学ぶことへの熱心さを感じることができます。本当に学びたいと考える学生が集まっているのだと思います。経験だけでは知ることが難しい、技術の本質を学ぼうとする社会人や、地理的な事情や経済的な事情があってこれまで大学に行けなかったという人が集まり、各自の目標を実現させようとしているのです。各学生が置かれている環境はさまざまですが、彼らは自分たちのライフスタイルに合わせて学習計画を立て、学んでいます。講義を受けるには、VODを視聴できるインターネット回線とパソコンがあれば時間も場所も自由です。平日働いている方であれば、夜自宅に帰ってから受講してもよいでしょうし、インターネットアクセスが可能な出張先のホテルや喫茶店、駅などで受講することもできます。私と一緒にエジプトの発掘調査に参加している学生の中には、毎日の発掘が終わってから、宿舎で他の講義を受講したりしています。
ネットワークによる教育格差の撤廃
インターネットを利用したVODの授業は、学生だけでなく講義を行う先生にとっても、自分の都合のよいときに講義が行える (録画できる) というメリットがあります。一般の学校では、先生は決められた講義の時間には教室にいなくてはなりません。したがって、それぞれの研究分野の第一線で活躍されている先生に講義を受け持ってもらうことは容易なことではありません。しかし、インターネットによるオンデマンド講義なら、教員も都合のよいときに講義を録画しておくことができ、大学に通う必要もありません。こうしたことが可能になることで、たとえばマヤ文明の講義はホンジュラス在住の研究者に講義を依頼するといったように、第一線の研究者らによる最先端の講義を提供することができるようになり、教員側も研究や仕事に専念することができるようになります。
海外には既に、多くのインターネット大学があり、たくさんの学生が学んでいます。たとえば米国のフェニックス大学では35万人、韓国のソウルデジタル大学では2万5000人の学生が学んでいます。インターネットを利用することで、これまであった教育の地域格差や年齢格差、収入や身体的条件による格差などがなくなり、誰でも同じ教育を受けられるようになります。今後は、日本でもインターネット大学が増えていくと思います。後半では、インターネットを利用してどのような授業を行っているのか、考古学と最新技術との関係などについてお話ししたいと思います。
(2007年12月12日掲載)
- ※ 掲載日以降、最新情報ではない場合があります。あらかじめご了承ください。




