子どもたちのやる気を引き出すミライ。

勉強うながしホーム

中・高校生の長時間のスマートフォン利用。一方的に禁止するのではなく、
彼らが自主的に勉強を始めて集中できる仕組みづくりを。
スマートフォン依存から抜け出すホームアプリ「勉強うながしホーム」を開発。
青少年のやる気づくりや適切なスマートフォン利用促進に取り組む研究員が
見つめるミライとは?

KDDI研究所
健康・医療ICTグループ

研究主査 工学博士本庄 勝(ほんじょう・まさる)

行動経済学で、自主的にコントロールを。

2015年の調査によると、高校生のスマートフォン利用時間は1日あたり平均2.58時間。10人に1人は5時間以上も利用するという結果が出ています。利用時間やアプリに制限をかける方法はありますが、自分がどれだけスマートフォンを利用しているか、まったく自覚がない子ほど、制限などしません。それより、中・高校生のやる気をうながし、彼ら自身が自主的にスマートフォン利用をコントロールする仕組みがつくれないか。そこで、私が注目したのが、NUDGE(ナッジ)です。
NUDGEは「肘で軽く突く」という意味の英語ですが、行動経済学では「科学的分析に基づき、選択の自由を維持したまま、正しい行動をとらせる」という意味で使われます。意識することなく自然に、定位置に座るよう色分けされた電車のシートや、カーブでスピードを出し過ぎないよう意図的に道路幅を狭く見せようとした高速道路の白線など、公共政策でもNUDGEが活用されています。このNUDGEの理論をベースに、「勉強うながしホーム」を開発しました。

「勉強モード」で、誘惑を
シャットアウト。育成キャラクターも。

「勉強うながしホーム」は、スマートフォンのホーム画面をカスタマイズするホームアプリです。登録したすべてのアプリが使える「通常モード」と、辞書や計算機など勉強に役立つアプリのみが利用できる「勉強モード」、2つのモードがあります。
勉強しようと思ったユーザーは、まず勉強時間を設定して、「勉強モード」に切り替えます。すると、たとえSNS等で連絡が届いても、「勉強モード」で使えないアプリのアイコンは表示されません。ちなみに「勉強モード」で使えるアプリは、中・高校生ユーザーと保護者が話し合って登録するようになっています。
キャラクター育成ゲームのような、遊びの要素があるのも「勉強うながしホーム」の特徴です。「勉強モード」の時間が長いと、アプリ上のキャラクターはすくすく育ち、神様に成長して、ときどきユーザーをほめてくれます。反対に、「通常モード」の時間が長く、SNSばかり利用していると、キャラクターはグレて、いかにも極悪そうな番長に変身します。さらに、ホーム画面がひび割れ背景になったり、「勉強しないと保護者に連絡する」と忠告する怒りモードのキャラクターがポップアップで登場したり、といった仕掛けも。
中・高校生ユーザーが楽しくスマホを利用しながら、勉強する気になる、そうしたさまざまな工夫を凝らしています。

こだわりの、自分だけのルールは?

ノー残業デーの水曜日は早めに帰ること。高校生の娘の勉強を手伝ったり、小学生の息子とゲームをしたり、家族とくつろぐ時間にしています。

夢中になっている趣味は?

庭で家庭菜園を始めて、8年目に突入。毎朝の水やりや害虫・雑草取りが日課です。食育も兼ねているのですが、子どもたちは苗植えと収穫のときしか手伝ってくれません。

子どもの頃の夢は?

両親によると、幼稚園の頃「博士になりたい」と言っていたらしいです。機械いじりが好きな父に影響されたのかな。そのときの想像通り、情報工学の道に進みました。

KDDI研究所のいいところは?

比較的自由に研究テーマを選ばせてくれるところ。それと、他グループの人でもすぐに協力してくれるつながりや風通しのよさですね。

高校生のアイデアを採用。
彼らが使いたいアプリに。

実際に利用する中・高校生の目線から見ないと、こうしたアプリは単なる大人の自己満足になってしまいます。彼らに使いたいと思わせることが大切です。
そこで、インターネットリテラシの啓もう活動などに積極的な、兵庫県猪名川町の高校生らとコラボを計画。仕組みづくりの途中で高校生の意見を聞き、パイロット版のモニターにもなってもらいました。実は、アプリ上でキャラクターが成長し、ユーザーをほめたり、怒ったりするのは、この高校生たちのアイデアです。「キャラクター育成ゲームのように、成長と共にそのキャラクターが話しかけてくるとおもしろい」「ほめられると、やる気が出るし、怒られると、そろそろやらなきゃという気になる」と聞いて、なるほど、私たち大人だけでは、こうした発想はなかったなと感心しました。
もちろん、「勉強うながしホーム」で、すべての中・高校生が長時間スマホ利用をやめられるわけではありません。大切なのは、ユーザー自身の意志。勉強をしよう、勉強をしたいというやる気を後押しすることではないでしょうか。
実用化に向けて、今は効果検証中です。さらに、長時間利用の一番の原因になっているSNSのグループチャットを、すんなりやめることができる機能なども追加する予定です。

勉強うながしホーム
(猪名川町青少年健全育成推進会議コラボ版)
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.kddilabs.jp.hmictg.nudge_home.inagawa&hl=ja

社会心理学を勉強し、
専門家との信頼関係を築く。

子どもと携帯電話の問題に最初に取り組んだのは2006年頃です。米カリフォルニア大学アーバイン校教授との共同研究で、“ネットいじめ”をテーマに選びました。情報工学が私の専門だったため周囲には驚かれましたが、社会問題化しているネットいじめに対して、情報工学も何か役立つことがあると信じてスタートさせました。
ネットいじめは心の内面に関わるナイーブな問題でもあるため、まずは社会心理学の専門家に協力を依頼したのですが、心理学の知識がないため、何をやるべきかをうまく伝えることができませんでした。忸怩たる思いをした私は、社会心理学の専門書を読んで勉強を重ねてから、再び協力を依頼。すると社会心理学の専門家が私の熱意を理解、今も続く信頼関係を築くことができました。その専門家の先生とは、今も一緒に社会心理学と情報工学との学際領域の研究をしています。
至誠にして動かざる者は未だこれ有らざるなり。これは、私が尊敬する吉田松陰が大切にしていた言葉で、自分の誠を説けば、動かない人はいないという意味です。研究開発を成功させるには、研究員としての知識や知見はもちろん大切ですが、それ以上に大切なのが情熱ではないでしょうか。
アカデミックな分野の権威を目指すより、社会に役立つ研究に携わりたい。特に、子どもたちの教育や心の問題には、ずっと寄り添いたい。これからも、私の思いはずっと変わりません。

スマートフォンから現れたのは、あなたの先生。
苦手教科はじっくり、得意教科はスピーディーに、
あなたのペースに合わせて教える、優秀な家庭教師です。
ときには、勉強部屋が戦国時代の合戦場や化学実験室に。
大人も子どもも、楽しく学べる、もっと学びたくなる、そんなミライがやって来ます。

研究員になりたい
人たちへのメッセージ。

研究員というと、一人でじっくり研究にいそしむイメージが
ありますが、実際は多くの人の協力を仰ぐことがとても多いです。
仲間がいるからこそ、刺激を受けて、新たな発想が生まれる。
研究員になっても一人で閉じこもらず、多くの仲間と協力して
研究を進めてください。すばらしい発見があるはずです。

スマホのモラル教育への思いは研究所一。アプリにこめた父親の思い。

彼の上司になって、4年以上が経ちました。約束は必ず守る、非常に信頼できる男です。子どもたちに、安心安全はもちろん、上手にスマートフォンと付き合ってほしいという思いはとても強いですね。中・高校生の自主性を重んじる「勉強うながしホーム」の楽しいアプローチは、とても彼らしいなと思いました。
雑談で楽しそうに自分の子どもの運動会やダンスの発表会の話をする様子から、いい父親なんだろうなということがうかがえますね。そんな彼の父親としての思いが「勉強うながしホーム」にこめられているのかもしれません。

KDDI研究所 健康・医療ICTグループリーダー橋本真幸

技術、熱意、誠実さで、これからも、人に優しい技術の開発を。

本庄さんは、KDDI本社のケーブルテレビ事業を兼任し、無線LANで画像を送る際の品質改善に関わるシステム開発を担当していました。そのときの兼任先の上司です。技術力に加え、熱意と誠実な人柄でしょうか、お客さまの信頼が厚く、プロジェクトの受注に大きく貢献いただきました。今は研究所の仕事に専念されているのですが、まだまだケーブルテレビ事業でも力を貸してもらいたかったですね。
「勉強うながしホーム」は、本庄さんらしい人に寄り添ったアプリだなと感じました。いかに楽しくたくさん利用してもらえるかといった視点だけじゃない、そうか、こういう視点もあるのだと気づかされました。これからも、人に優しい彼らしい技術を開発してくれると期待しています。

KDDI メディア・CATV推進本部
メディアプロダクト技術部 技術開発グループリーダー
 木村明夫