海底に眠る、ミライの可能性。

海底探査技術

水深4,000メートルの深海、250平方キロメートル以上の広さを無人ロボットで探査し、
24時間以内で海底地形マップを構築せよ。
産学官の共同研究チーム「Team KUROSHIO」は、そんな壮大なミッションに挑んでいます。
海底探査の未来を担うチームの一員として、海底と地上をつなぐ研究員が見つめるミライ、
一緒にのぞいてみましょう。

KDDI総合研究所
環境計測プロジェクト

研究主査西谷 明彦(にしたに・あきひこ)

無人の海底探査レースに出場。
未知の世界、深海に挑む。

「Team KUROSHIO」が挑んでいるのが、超広域・超高速の無人での海底マッピングをミッションとする国際コンペティション「Shell Ocean Discovery XPRIZE」(以下XPRIZE)です。
XPRIZEの主なスポンサーは、石油業界大手のRoyal Dutch Shell。賞金総額は700万ドルです。全世界から32チームがエントリーした中、21チームが技術提案書の書類選考を通過。日本からエントリーした3チームの中で通過したのは、Team KUROSHIOのみとなりました。
2017年10月~11月には、21チームによる海底マッピングレース、ラウンド1が開催されます。ラウンド1のミッションは、水深2,000メートルで、16時間以内に100平方キロメートル以上を探査して海底地形マップを構築し、海底5カ所のチェックポイントを撮影すること。
ラウンド1を通過すると、2018年9月に行われるラウンド2の出場が決まります。ラウンド2では、レベルがさらに上がり、水深4,000メートルで、24時間以内に250平方キロメートル以上を探査して海底地形マップを構築し、海底10カ所のチェックポイントを撮影することがミッションとなります。
最初にTeam KUROSHIOへの参加を要請されたときは、これまでにないスケールの大きなミッションにワクワクするのと同時に、なんて難関なコンペだろうと思いました。民間企業がスポンサーとなって、こうしたコンペを開催するほど、海底を広域かつ高速に探査したいというニーズが高まっていることにも驚きました。

人の手を介さない、
ロボットによる探査の難しさ。

Team KUROSHIOは、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、東京大学生産技術研究所、海上技術安全研究所、三井造船、ヤマハ発動機などが参加する共同研究チームです。国家主導のチームとして発足したわけではなく、XPRIZEのことを知った各機関・民間企業が声をかけあって集結しました。KDDI総合研究所からは、私を含めて2名参加しています。
KDDI総合研究所には、小型の自律走行式水中ロボット「AQUA EXPLORER 2」などの開発実績があります。これは、光海底ケーブルの埋設状況等を探査するために、私が現在所属する環境計測プロジェクトの小島リーダーが開発したものです。 人が操作しなくても、設定したルートに従って自律的に海中を探査するロボットで、AUV(Autonomous Underwater Vehicle)と呼ばれています。通常の海底探査は、この自律型海中ロボット(AUV)を母船に積んで海域まで運び、そこから潜航させます。つまり、海域までは人が操縦し、海底探査のみを無人のAUVが行うんです。
ところが、XPRIZEは、AUVを海域まで運ぶ船さえ無人という、完全なる無人探査となります。そのため、母船の代わりに、ASV(Autonomous Surface Vehicle)と呼ばれる無人の洋上中継器で、岸壁から20km以上離れた海域へAUVを運び、人の手を使わずにAUVを潜航させなくてはなりません。
さらに、AUVが海底の地形の探査を終えたら、洋上中継器(ASV) はAUVを回収し、岸まで連れて戻ってくることも必要です。これだけでも難しいのに、水深、マッピングの広さもこれまでとは桁違いだし、制限時間もかなり厳しいですね。

環境計測プロジェクトに入ったきっかけは?

海が大好きで、環境保護に貢献したいと思いと、あまり誰もやっていないことにチャレンジしたいという思いから、希望しました。KDDIでもこうした取り組みを行っていると言うと、まわりに驚かれる時もあります。

夢中になっている趣味は?

スキューバダイビング、釣りなど。海でするものばかりですね。釣りのために、一級小型船舶の免許も取り、小型漁船を自ら操船し沖に出ていた頃もありました。

子どもの頃の夢は?

中学生のときにソフトウェア開発が流行った影響で、プログラマーになりたいと思っていました。海は好きでしたが、それを仕事にすることはあまり考えていませんでした。

KDDI総合研究所のいいところは?

環境計測プロジェクトのような、異色の分野も認めてくれるところ。大好きな海洋に関する研究に思いっきり関われているのは、研究者冥利につきますね。

ミッション成功に必須な、
KDDIが誇る2つの通信技術。

Team KUROSHIOの中で、私たちKDDI総合研究所が担っているのが、2つの通信システムです。空中では衛星通信技術、水中では音響通信技術を使います。
地球局を通して、陸上の管制局と海上のASV(洋上中継器)を人工衛星でつなぎ、陸からASVを操縦。そして、ASVと水中のAUV(自律型海中ロボット)間、3台のAUV間は音響通信でつなぎます。AUVには、探査コースがインプットされており、障害物などをよけながら海底探査をします。その海上では、ASVがAUVの位置を監視しています。
音響通信を利用するのは、水中の唯一の通信手段が音波になるからです。実はこの水中音響通信も、そもそもは小島リーダーが開発したものです。海底ケーブルのメンテナンスや、海や川の生き物を観測するために進化を重ね、絶滅の危機に瀕しているカワイルカの観測にもこの技術が活用されました。Team KUROSHIOでも、この音響通信システムが、使われています。

出展元:Team KUROSHIO

Team KUROSHIO 深海への挑戦

https://team-kuroshio.jp/

賞金よりも、
海底探査技術の発展のために。

XPRIZEには、世界中から強豪チームが参加していると思いますが、Team KUROSHIOの実力は世界トップクラスだと思います。まずはラウンド1を成功させ、精密な海底地形図を完成させること。これが、今の目標です。ラウンド2に進出したら、当然優勝を狙います。
優勝したいといっても、賞金が欲しいからというわけではないんです。それよりも、日本の海底探査技術が世界中から注目され、大きな発展を遂げることに意味があると思います。それによって、さまざまな海底事業が生まれ、海底資源開発も進み、日本が資源大国になる可能性も生まれるのではないでしょうか。
地球の7割を占める海の底について、実はまだ10%ほどしかわかっていないみたいです。海には、まだまだ多くの可能性が眠っています。資源開発だけでなく、環境保護、災害対策といった面からも重要だし、何よりロマンがありますよね。
XPRIZEによって、海底探査に興味を持つ若者が増えてくれることも期待しています。海底探査技術の世界はベテランが多く、若者が少ないんです。若い研究者には、ぜひこの世界に飛び込んできてほしいですね。

楽しい海水浴、連れて行くのは我が家の海底ロボット。
深海にしか生息しない、不思議な生き物や植物など、
SF小説や映画で見た美しい海底世界を気軽にのぞくことができる。
もっと海と親しくなれる、そんなミライがやって来ます。

研究員になりたい
人たちへのメッセージ。

さまざまな課題、多くのハードルを一つ一つ越えていくことが、
研究員の醍醐味だと思います。
どうかチャレンジ精神を忘れず、失敗しても、
それを活かして次に進んでいってください。
それと、海洋に興味を持つ研究員が増えてほしい。
日本の海底探査技術を担う、そんな人材が出てくるといいですね。

海洋研究の後継者となる存在にやっと出会えた。

西谷さんが入る前まで、環境計測プロジェクトで水中ロボット関連の研究は私一人だったんです。所長にも「海洋研究の後継者を育ててほしい」と言われていたのですが、なかなか適任者がいなくて。だから、西谷さんが希望していると知ったときには、うれしかったです。最初からすごく意欲的で、AUV実験のノウハウもあっという間に習得しましたね。総研の定例研究発表会では、水中の音響通信の研究で1位になったんですよ。プレゼンは、私よりずっと上手いんじゃないかな。
Team KUROSHIOは彼にとって大きなチャンス。社外の人とチームを組むことで、さらに視野も広がっているのでは。とにかく研究熱心だし、そろそろ水中の音響通信技術の新たな方法を生み出すのではと期待しています。

KDDI総合研究所
環境計測プロジェクト プロジェクトリーダー
小島淳一

日本の発展に欠かせない、
海底探査技術を担う人物になれる。

西谷さんは、環境計測プロジェクトと共に、KDDIの事業多角化に向けて調査をする部門を兼任しています。私は、その兼任先の上司です。研究員としての西谷さんを一言で言い表すなら、まさに職人。物事に深く切り込んで追求し、気になる技術に出会うと、人任せにせず、その仕組みをつくるところから始めるんです。
彼がTeam KUROSHIOに参加すると聞いたときは、これ以上ない適役だと思いました。優秀な技術者、そして“海の男”として、最高のチャンスを得たなと。これからの日本の発展には、海底探査技術を欠かすことはできません。これを事業化するには、技術とビジネスのセンス、両方を持っている彼のような人物が絶対必要だと思います。

KDDI総合研究所
フューチャーデザイン2部門3グループリーダー 工学博士
横山浩之