月面を走る、ミライの希望。

月面探査技術

月面にロボット探査機を着陸させ、着陸地点から500メートル移動させたら、
高解像度の動画や静止画データを地球に送信せよ。
日本初の民間月面探査チーム「HAKUTO」は、そんなSF映画のようなミッションに挑んでいます。
宇宙開発の未来を担うチームの一員として、月面での通信を担う研究員が見つめるミライ、
一緒にのぞいてみましょう。

KDDI総合研究所
無線プラットフォーム
グループ

研究員本間 寛明(ほんま・ひろあき)

無人の月面探査レースに出場。遥かなる宇宙に挑む。

人類初のロボット月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に、日本から唯一参戦しているチームが「HAKUTO」です。民間による宇宙開発を目指すチームは、日本初。民間企業の技術者や大学の研究室など、さまざまなスペシャリストがメンバーとなっています。
月面に民間開発のロボット探査機を着陸させ、500メートル以上走行させたら、高解像度の動画や静止画を地球に送信する。それが、このレースのミッションです。HAKUTOの場合、ロケットの打ち上げと月面への着陸はインドのチームとの相乗りとなるため、月面の探査に力を注いでいます。
当初は、世界中から34ものチームが名乗りをあげたのですが、資金や技術面などの問題から、月面探査に行くファイナリストは5チームに絞られました。賞金総額は3,000万ドル。メインミッションを最も早く達成したチームには、2,000万ドルの賞金が贈られます。
といっても、このミッションの真の目的は、起業家の挑戦心を刺激し、新たな宇宙ビジネスの育成や月資源の効率的な開発と利用を実現すること。また、次世代のテクノロジーやイノベーションに関わる人々を、さらなる宇宙への挑戦へと駆り立てることも、重要な目的となっています。
ミッションを実現するには巨額の資金が必要ですが、国の援助はまったく受けていません。HAKUTOの資金は、企業からの支援や個人サポーターの会費などで補っています。
KDDIは、HAKUTOが掲げる人類の宇宙進出のビジョンに共感し、HAKUTOのオフィシャルパートナーとなりました。費用面のサポートだけでなく、レース成否のカギを握る通信技術も提供。KDDI総合研究所からも私を含む6名がHAKUTOチームに加入し、通信システムと映像システムを担当しています。

月面での通信を途切れさせないことの難しさ。

月面は、昼100度以上、夜-150度以下の温度になり、岩石やクレーターなどの障害物も多い、特殊な環境にあります。その月面を、限られた電力でローバー(探査機)との通信を途切れさせず、解像度の高い映像データ、ほぼリアルタイムの映像データを送信するのは、とても困難です。
地上と月に降り立った着陸船の通信は、人工衛星の様な宇宙向けの無線通信を利用します。地球から月までの距離は38万km以上あるのですが、光は1秒間で30万kmしか進みません。さまざまな機器の遅延も合わせると、光が進んで戻ってくるだけで数十秒はかかるので、地上から操作するとどうしても時差が生じてしまいます。
通信・映像システムを担う私たちの任務は、月面での通信を途切れさせることなく、低スループットの環境下で高解像度の動画・画像データを効率的に送信すること。世界の通信分野をリードしてきたKDDIといえども、これまで手掛けたことのない、前人未到の技術領域だと思います。
私がメインに担当するのは、月面の通信エリアの拡大です。着陸地点からローバーを500メートル走らせるには、着陸船から500メートルの電波をとばさなくてはなりません。実は月面でも、地上のau Wi-Fiなどで使われている周波数帯を採用するなど、auケータイの通信エリアを拡大するときと同じ方法をとるのですが、月面ゆえの難しさがいろいろあるんです。

学生のときは、どんな研究をしていた?

レーダーの研究。更衣室やトイレなど、監視カメラを置けないところの防犯システムとして、どうレーダーを利用するかといったことです。

夢中になっている趣味は?

自然と温泉が大好きなんです。山に登って、その晩は温泉を堪能する…なんて休日が最高ですね。先週も陣馬山に登って、帰りに温泉に入ってきました。

子どもの頃の夢は?

サッカー選手、歯医者など、毎年コロコロ変わっていましたが、高校生のときに技術者になろうと決めました。といっても漠然と思っていただけで、具体的に何の…までは考えてなかったです。

KDDI総合研究所のいいところは?

ニッチに研究分野を突き詰めるのではなく、広い範囲を見ることができること。担当の分野でなくても、興味があるのであれば、首をつっこむのを許容してくれるところもいいですね。

砂丘を月面に見立てて検証。
理論と現実の狭間で悩む。

外部からの電波の混入をシャットアウトする電波無響室でアンテナの性能を測定したり、月面に見立てて障害物を置いた鳥取砂丘でフィールド試験を重ねたりと、あらゆる角度からの検証は欠かせません。月面は、岩石やクレーターによる電波妨害が起こりうるし、ローバーは数十cm程度の高さしかないので、受信した電波が地面に反射して混ざってしまう可能性があるんです。
月に行ったことがあるわけではないので、鳥取砂丘でほんとうに月面を再現できているか、確信も持てません。実際の月がどんなところか、はっきりわからないのが、一番苦労している点ですね。でも、フィールド試験のデータ結果をもとにローバーが改良され、次の試験でいいデータ結果を得ることができると、あぁ一歩ずつ進んでいるなと実感できるし、やっぱりうれしいですね。
今後は、国内でさらにローバーのフィールド試験を重ねたら、実際の打ち上げ場となるインドに渡り、そこでさらに試験を重ね、2017年12月に本番を迎えるスケジュールになっています。

HAKUTO
https://team-hakuto.jp/
au × HAKUTO MOON CHALLENGE
https://au-hakuto.jp/

入社6年目でHAKUTOチームに抜擢。
ミッション達成まで、あと少し?

私がHAKUTOのチームに参加したのは、2016年初頭。KDDI総合研究所の他の5名は長年通信業界で活躍するベテランですが、私はまだ入社6年目で最も経験が浅いんです。上司からHAKUTOへの参加を告げられたときは、「この機会に、通信の装置や実験を学んでほしい」と言われました。だから、「あぁ作業員として呼ばれたのか、装置の使い方を覚えたらHAKUTOを抜けるのかな」と思ってたんです。でも、どうやらこのままHAKUTOの一員でいられるようで、ほっとしています。ここまできたら、ミッション達成まで見届けなくては。
今は、業務の6割がHAKUTO関連、残りの4割が次世代通信システムの開発です。HAKUTOに参加する前は、ドローンを利用した災害対策を研究していました。さまざまな制約があり、実用化には至っていませんが、被災地の通信エリアカバー等にこの技術が応用されているんです。やっぱり自分の研究が一人でも多くの人に役立つことこそ、研究者のやりがいにつながると感じます。
将来は自分が企画を立ち上げて、チームを率いることができる。そんな研究員になりたいですね。とはいえ、今はHAKUTOのミッションを達成することで頭がいっぱいですね。

地上から探査ロボットを操って、
何万光年も離れた惑星の細部を観察。
来年の家族旅行は、月? それとも火星?
宇宙観察や宇宙旅行を気軽に楽しむ、そんなミライがやって来ます。

研究員になりたい
人たちへのメッセージ。

自分の専門領域にとらわれすぎて、他の分野に目を向けない。
そんな研究員にはならないでください。
一見関係なさそうな分野でも、興味を持って探ると意外とおもしろいもの。
それに研究所では、さまざまな分野が集まった複合的なプロジェクトも
多いですからね。
広い視野を持った研究員を目指してください。

一歩一歩、着実に問題を解決していくタイプ。怖いもの知らずの面も。

彼の上司でもあり、共にHAKUTOに参加する仲間でもあります。本間さんは、HAKUTO通信システムでは、ローバーに搭載する無線機の性能評価と改善を担当し、一つ一つ検証しながら、効果的な改善策を積み重ねていて、とても頼もしいです。チャレンジングでやりがいがある一方、非常に難しい技術課題を抱えているHAKUTOですが、一歩一歩、着実に問題を解決していくタイプの彼なら、乗り越えられると信じています。
先日、次世代通信システムの実証実験のために、地方のスタジアムの現地調査に行ってもらったのですが、足場の狭い高いところでも、まったく平気な顔。怖いもの知らずの面もあるんだなと感心しました。

KDDI総合研究所 次世代アクセスネットワーク部門長 岸洋司

KDDIの未知の領域を開拓し、しっかりかたちにできる。

彼は一つ下の後輩。同じグループ、かつ隣の席なので、彼が仕事する様子はずっと見てきました。前に担当していたドローンを利用した災害時用通信の研究プロジェクトでは、他のメンバーが異動になって彼だけが残されたんです。なので、「あぁ、これでこの研究は大変なことになるのかな」と思っていたら、しっかりデモまでこぎつけ、雑誌から取材を受けている。このときといい、HAKUTOの月面探査といい、KDDIにとって未知の領域の研究をする機会が多いのに、しっかりかたちにできるのはすごいです。
これからも、新たな研究領域をどんどん切り開いてほしい。KDDIにはなかった新たな事業領域を生み出せる、そんな研究者になってほしいですね。

KDDI総合研究所 無線プラットフォームグループ 研究主査 定知生