去る3月16日から21日の間、カンボジアに3度目の訪問を行った。今回は仕事とは関係なく一般ツアーへの参加であり、世界遺産で、カンボジア観光の定番で、国旗にも描かれいるアンコールワットを訪れることができた。また、KECとKDDIが、カンボジアの子供達のために学校の建設を行ってきているが、その4番目の学校の開校式に参列する機会を得た。まさに、カンボジアの過去の繁栄の歴史と、カンボジアの将来を担う子供たちとの出会いの旅となった。
密林の中に眠るアンコールワットはその規模と美しさ、そして、壁、天井に隈なく施された繊細な彫刻は、嘗てこの場所が地上の楽園であったことを想像させ、そのスケールで訪れる者を圧倒する。東西1.5km、南北1.3kmの堀に囲まれた巨大遺跡にもかかわらず、その存在が世に知れたのはわずかに150年前というから驚きである。嘗てのクメール時代の王都時代には、アンコールワットを中心に数百をこえる大小の寺院が、東京23区にも匹敵する広大な地域に建立されていたという。まさに永い眠りから覚めた壮大なスケールの至宝である。
しかしながら、こうした貴重な遺跡群も、長い年月の経過と約30年前の内戦によって崩壊の一途を辿っている。辛うじて体裁を保っているものも少なくないが、カンボジア人の誇りと魂を垣間見た気がした。国際協力による復旧作業が至る所で進められているが、その中でも上智大学を始めとする日本の援助の貢献は大きく、地下足袋が威力を発揮しているとのことである。
アンコール遺跡周辺は、感動的なサンライズ、サンセットを体験できる場所としても有名である。18日早朝5時にホテルを出て、アンコールワットから北東4~5kmのところにあるスラ・スランに向かった。王の沐浴場だったと言われている大きな池があり、池の向こう側から昇る朝日が水面にキラキラと輝くドラマチックなサンライズが見られるという。
西側のテラスに着くと、夜明け前の薄暗い闇の中で、幼い子供達が日の出を見に来た観光客に盛んに声をかけながら、絵葉書、葦の笛、アンコール遺跡の写真を載せた本などを売り回っている。育ち盛りの子供にとって、早起きはつらく厳しいものであろうが、この国では、子供は一家の生活費を稼ぐ貴重な労働力なのだ。ここで2つのことに驚かされた。
1つは、子供たちの話しかける英語である。発音も自然で、簡単なやりとりは十分にできる。聞けば、学校で英語を習っているわけでもなく、親は英語を話せないと言う。こうした観光客との出会いの時間が、彼らにとって実践英会話の場になっているのだ。その上、日本語も凄い。「絵葉書買わないと、太陽が昇らないよ!」と言い寄ってくる。こちらも片言のクメール語で話しかけると、「おじちゃん、賢いね!」などと関西弁なまりの日本語で応酬くる。決して豊かでないこの国で、子供達のいっぱいの元気と明るさに出会った日の出前の瞬間であった。もう1つは、日本人を日本人と認識する子供達の眼力である。観光客の数では韓国人がトップということだが、スラ・スランに限らず必ず我々には日本語で話しかけてくる。子供達の声がけに、試しに韓国語を使って「アンニョン・ハセヨ」と応えてみると、一瞬怪訝な顔を見せたものの直ぐに日本人であること見抜いてしまった。
肝心のサンライズの方は、子供達から本を買ってみたものの、季節はずれのシャワーに見舞われ、期待はずれであったが、英語、クメール語、日本語を駆使しての現地の子供とのやり取りは、それ以上の旅の思い出を残してくれた。
今回のツアーのもう1つの目玉の中学校の開校式は、首都プノンペンの北東の、車で2時間ほど離れた農村で行われた。勿論、電気、水道、ガスは来ていない。30度を超える炎天下のなか、数百人の父兄と生徒が空き地に設営されたテントの下にひしめきあい式典の開始を待っていた。
来賓、ドナーの挨拶の後、生徒代表から感謝の言葉と続き、そして子供達に、スポーツ用品、文房具、人形などのプレゼントが行われた。生徒達は全体的に小柄で、屈託のない笑顔を我々に向けてくれる。質素ながら、みな小ぎれいな白いワイシャツを着ていて、爽やかな印象をあたえる。
式典の後、教室を回ってみると、生徒達はそれぞれの席で一斉に両手を胸の前で合せてるカンボジアの挨拶で出迎えてくれた。大きな眼差しをこちらに向ける。きれいな目と白い歯が印象的だ。無駄口をたたく者も居室を走り回るものもいない。最近TV番組でカンボジアがしばしば取り上げられるが、子供達のくったくのない笑顔とどこかシャイな表情が我々を惹きつける。
カンボジアでは、国民の4人に1人が今でも文字の読み書きができない。30年前の内戦によって産業基盤、教育制度が崩壊し、いまでも深い傷跡を残している。子供達が家族の生活を支えており、闇の世界では未だに子供の売り買いがされているという。
嘗て「東洋のパリ」称されたプノンペン、内戦を扱ったアメリカ映画「The Killing Field」の最初のナレーションで「Cambodia, to many Westerners, it seemed a paradise…」と紹介された国。カンボジアが以前の平和で美しい姿を再び取り戻し、国の未来を担う子供達に僅かでも夢と希望を与えていければと願いながら、6日間の短い旅の帰路についた。





