正解がまだない。
だから、おもしろい。

移動の新しいカタチ

経営戦略本部 ビジネス開発部

堀江 龍

コンシューマ営業部門でauショップ運営代理店の営業や旗艦店の立ち上げ・子会社化に携わったのち、2019年4月、社内公募をきっかけにMaaS事業の推進に従事。現在は「相乗りタクシー通勤」のサービス立ち上げを担当している。

ベンチャーさながら、
ゼロからつくった交通サービス

都市部では交通渋滞や満員電車が常態化しており、コロナ禍以降は公共交通機関での感染も懸念されるようになりました。一方で、地方では少子高齢化により交通インフラの維持や運営が困難となり、交通弱者が増加しています。そんな交通にまつわる諸問題や、SDGsにもつながる地域格差改善に寄与し得るのが、次世代の交通サービス「MaaS (Mobility as a Service)」です。MaaSとは、ITを用いてあらゆる交通機関をひとつなぎに利用できるサービスのこと。私のチームでは、「移動」や「交通」をテクノロジーで進化させ、世の中をより便利に、豊かにしていくことを目指しています。

私は以前auショップ関連の営業職として働いていましたが、中長期成長事業であるMaaS事業の社内公募があり、自ら手を挙げました。"若手"と呼ばれるうちに、新事業開発にチャレンジしたいという想いがあったからです。異動後は転職したかのように業務内容が一変。ベンチャー企業のように全くゼロの状態からメンバーで議論と試行錯誤を重ね、"タクシー"という業態に可能性を見出しました。社長に何度もプレゼンを行って事業戦略を練り上げ、現在はサービス始動に向けてプロジェクトを推進しています。

コロナ禍の苦境を、商用化への自信に変換

海外ではUberやDiDiなどの一般ドライバーと乗客をマッチングする"ライドシェア"が浸透している国もありますが、日本では一般人が有償で他人を車に乗せる、いわゆる「白タク」が禁じられています。しかし、都心部の渋滞や地方の運転者不足は年々深刻に。そこで2019年、政府は課題解決へ向けてタクシー相乗りの規制緩和を進めようと動き出しました。その流れと呼応する形で、私たちは「オンデマンド相乗り通勤タクシーサービス」プロジェクトを発足させたのです。

準備段階として2020年に実施したのが、KDDI社員向けの実証実験。利用者がアプリを使って乗りたい場所と目的地と時刻を予約すると相乗りのマッチングが行われ、タクシーが複数の利用者をピックアップしながら目的地周辺まで運ぶというものです。タクシーの相乗りサービスは日本でなじみが薄いことに加え、コロナ禍という状況で、他人と密室で過ごすことへの懸念を抱く人もいるはず。しかしそこは考え方を転換し、不特定多数の乗客と接する電車やバスなどの公共交通機関を使わずに、"特定少人数"で移動できることの安心感を打ち出しました。

利用した社員からは「自宅近くから座って通勤できて快適」、「感染対策としても電車やバスより安心」との声があり、サービス化された場合の利用意向は90%超。商用化の手ごたえを感じました。ここからさらに運用改善を進め、2021年度上期中には商用化を目指します。最初は小さな規模でのスタートになると思いますが、その後徐々に拡大していこうとしています。

既存業界との共栄を
モチベーションに変えて

新しいサービス創出を行う今回のプロジェクト。そこに決まりきった正解はなく、状況に応じて手探りで進める行程は苦難の連続です。さらに、新型コロナウイルスの影響で規制緩和が延期になったり、移動に対する人々の価値観が変わったことで、サービスのコンセプトを練り直さなければならなくなったりしたときには、先の見えない不安にもさいなまれました。

しかし、課題と一つひとつ向き合いながら、新しい事業を形にしていくことには大きなやりがいがあり、正解がないからこそ、コロナ禍という特殊な状況にも柔軟に対応できたように思います。通信を核に、新しい分野へ挑むことができるKDDIの環境もまた、未知の領域へのチャレンジを後押ししてくれました。

また、タクシー業界とパートナーシップを結ぶことができたのも、通信事業者として実績を積み重ねてきたKDDIという看板があったからこそ。「ライドシェア」という言葉は、海外の主流サービスのような一般人による有償旅客運送を想起させ、既存交通事業者からネガティブなイメージを抱かれる対象となることもあると思いますが、私たちのサービスはタクシー業界の方々と共存していくべきもの。今後、パートナー企業と手を取り合い、業界のDX化を促進して需給マッチングの効率化を図ることで、新たな需要創出を目指していきたいと思っています。

時代に即した、新しい「移動」の形とは

コロナ禍を経て、「移動」に対する価値観は大きく変化しました。テレワークの普及によって移動の機会が減少した一方、移動した先で人と対面することの大切さや、自由に移動ができることに価値を感じる人も増えたと思います。

相乗りタクシーは、そうした新しい価値観にフィットし、都市部でのシェアリングエコノミーの需要に適合するだけではなく、排気ガスの削減や渋滞・交通過密の緩和などの社会課題の解決にも寄与できるもの。これからも時代とともに変わりゆくであろう「移動」の価値観に合わせて、誰もが利用しやすいサービスをつくり、人と人、人と場所をつなぐ新たな移動のスタンダードとして育てていきたいと考えています。

  • 所属・内容等は取材当時のものです。