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高齢者のデジタルデバイド解消

ソリューション事業本部 ビジネスデザイン本部
DX推進部

藤澤 祐介 (写真右)

藤岡 未帆 (写真左)

藤澤祐介
2014年に入社し、法人営業に従事。モバイルやネットワーク、クラウドなどの大規模ソリューションを多数経験。2020年より、お客さまのDX実現を支援・推進する現業務を担当し、渋谷区デジタルデバイド解消事業ではプロジェクトリーダーを務めている。

藤岡未帆
2020年に入社し、DX推進部に配属。渋谷区デジタルデバイド解消事業におけるスマホ講座の運営・企画を担当。また、KDDI Location AnalyzerやKDDI Message Castといった商材の拡販業務も行っている。

渋谷の課題、デジタルデバイドを解消したい

藤澤: DX推進部のミッションは、お客さまが目指すDX (デジタルトランスフォーメーション) をサポートすることです。昨今はIT系企業や製造業はもとより、小売・流通・金融業界・官公庁など社会のあらゆる分野でDXが進められています。しかし、各業種のメインミッションと並行してDXを進めるのは容易ではありません。私たちのDX支援は、単なる通信インフラの整備・拡充にとどまらない「+α」を提供することで、お客さまが目指すトランスフォーメーションを実現していきます。

2021年9月6日から渋谷区とKDDIは、スマートフォンを持っていない65歳以上の区民約1700名を対象に、無料貸し出しを行う実証事業を開始しました。この事業は、高齢者のデジタルデバイド (情報格差) を解消し、生活の質 (Quality of Life) を向上させることを目的としています。機器の貸し出しのみならず、講習会による継続的な利用サポートや利用状況の分析などによって、高齢者のスマホ利用促進を支援しています。

藤澤祐介 (DX推進部)

浮き彫りになるデジタルデバイドの課題

藤澤: デジタルデバイドが問題視されはじめたのは、頻発する自然災害がきっかけです。地震や異常気象などにより全国的に被害が発生していますが、例えば、令和元年に発生した東日本台風の際、いち早く避難所に避難できたのは、スマートフォンを日常的に使っていてリアルタイムに情報へアクセスできた若い世代だったといわれています。渋谷区内の避難所では、約5割が20~30代で、65歳以上の高齢者で避難してきた人は1割に満たなかったそうです。渋谷区はこうした経験を踏まえ、緊急時に備えて誰もがスマートフォンを使いこなせるよう、デジタルデバイドの解消に注力しているとのことです。

危惧されることは、ほかにもあります。専門家の意見によると、コミュニティからの孤立、就労機会が得られないなど、情報格差による不利益は想像以上に多いといわれています。しかし、世帯の核家族化によって情報を共有してくれる周囲の人が減ったり、コロナ禍におけるコミュニケーションの場が減ったりなど、高齢者が自助努力で乗り越えるのは難しい現状があることをこの事業に携わって理解しました。自治体と連携し、情報社会と高齢者をつなげることは喫緊の課題であり、通信会社である私たちKDDIの使命だと思っています。そのためには問題の正確な把握と分析、そして継続的かつ細やかなケアが必要だと考えています。

藤岡未帆 (DX推進部)

通信技術に「+α」のケアを

藤岡: 約1700名の高齢者の方々に配布したスマートフォンには、あらかじめ必要なアプリがインストールされていて、文字サイズを大きくするなどのカスタムをしています。利用者にとって面倒な操作を極力省き、使いこなすためのモチベーションを維持してもらうのが狙いです。

講習会では、電源のつけ方や用語解説など、基礎的なところから丁寧にレクチャーしていきます。YouTubeなどのエンタメ系アプリや健康促進系アプリの使用も積極的にすすめ、楽しみながら継続利用してもらうことも重視しています。また、こうした過程で収集したデータを分析し、継続利用率や習熟度、健康状態の相関性などを追跡調査しています。

高齢者がスマートフォンを使う動機としては、「家族や友人とコミュニケーションをとりたい」というものが圧倒的に多いです。一方で、スマートフォンを積極的に利用したいという、新しい商品やサービスなどに対しての関心が高い層の割合も増えています。そういった方々からはネット検索をしたり、LINEで連絡を取り合うだけでなく、InstagramやTikTok、キャッシュレス決済の利用方法を教えてほしいという声もいただいています。高齢者はスマートフォンに対して抵抗を持っている、というようなステレオタイプにとらわれることなく、新しいユーザーとして接するべきだと思います。そうすることで、私たち自身の意識も変えていきたいです。

情報格差を越えて、サステナブルな社会へ

藤岡: 一方で、スマートフォンの利用を断念する方々もいらっしゃいます。使い道が見いだせない場合は、ご利用者の興味関心に合わせておすすめの楽しみ方や活用方法を提案していますが、今後は高齢者層に訴求力のあるインフルエンサーと協働して、エピソードやストーリーを発信してもらうなど新たな取り組みにも挑戦していきたいと考えています。

藤澤: 高齢者の方々に、自治体や企業のサポートがなくてもスマートフォンを継続的に使っていただくためには、「文化」の醸成が不可欠だと思います。自ら積極的に活用し、発信もしていく人、さらに続く人々へと広がりが生まれる、といった大きな流れができるのが理想です。ここで重要になるのがコミュニティづくりです。紙媒体やテレビ・ラジオはもとより、地域にあるシニアクラブのつながりなども活用しながら、情報が人から人へ伝播されていくような環境ができることが理想だと思っています。

例えば、高齢者のみなさんは友人間の口コミに、何より信頼をおかれています。最高齢の方がスマホを使ってくださることで、強力なインフルエンサーになり、「私もやってみよう」という人が増えるかもしれない。私たちが担うべき役割は、高齢者・住人同士のつながりでスマホ利用が活性化するような、持続的なコミュニティづくりを実現させることだと思っています。

藤岡: 通信・ITは、サステナブルな社会づくりの一助となり得ると思います。以前、お客さまから「地方にいる孫とビデオ通話ができるようになりました。家族とのコミュニケーションが増え、私にとっては素晴らしいプレゼントです」というコメントをいただいたことがあります。今まで限られた情報しか得られなかった人々がスマートフォンを使うようになることで、出会うはずのなかった人に出会ったり、必要な情報にもっとアクセスできるようになったりします。それは人々の生活を変え、やがて社会を変える力になっていくのではないでしょうか。スマートフォンが高齢者の生活の一部となるように、これからも継続的なサポートを通して「人と人、人と情報をつなぐ」チャレンジをしていきたいです。

  • 所属・内容等は取材当時のものです。