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都市連動型メタバース

事業創造本部
ビジネスインキュベーション推進部

松村 敏幸

2003年に入社。事業創造本部ビジネスインキュベーション推進部にて、ベンチャー企業と大企業がオープンイノベーションで事業共創を目指すプラットフォームの運営と、コーポレートベンチャーファンドによる出資を通じた新規事業の創出に携わる。

もうひとつの「渋谷」がもたらす新しい体験

渋谷区公認の配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」は、渋谷5Gエンターテイメントプロジェクトの一環として2020年5月にオープンしました。昨今は新型コロナウイルス感染症の影響で、さまざまな経済・文化活動が制限されています。バーチャル渋谷は、そのような状況下でもエンターテイメント活動を止めることなく、アーティストのライブや展示、トークイベントなど渋谷らしいコンテンツの発信・体験を可能にしています。また、現実の渋谷とバーチャル (3Dグラフィックで描かれたインターネット上の空間) の渋谷を連動させた体験の創出を目指しています。

私が所属するビジネスインキュベーション推進部は、オープンイノベーションによる事業共創を目指すプラットフォーム「KDDI ∞ Labo (ムゲンラボ)」やコーポレートベンチャーキャピタルのKDDI Open Innovation Fundの運営を通じて、新規事業の創出を担う部署です。そのなかで私は、スタートアップとの連携によるサービスの企画・開発を担当しており、特にXR (クロスリアリティ) 領域における新サービス開発や出資活動を主な業務としています。バーチャル渋谷も私が主に担当する事業のひとつです。

自社ですべてを完結させない、共創の理念

渋谷区とプロジェクトを進め始めたのは2019年9月からです。最初は現実の渋谷の街をAR (現実世界をスマホ越しに見ると、建物や空間にデータやコンテンツ情報が付加される仕組み) を活用し、新しい街の体験を創出する取り組みを予定していました。しかし、折しも発生した新型コロナウイルスの影響でイベント自体が中止に。コロナ禍以降、「音楽ライブの中止で何億円も損失が出た」というニュースをよく目にするようになったかと思います。こうした状況の変化に対して、私たちはバーチャル渋谷以前からXR領域で蓄積してきたスタートアップの方々の力も借りながら、コロナ禍に即応した次善策を短期間のうちに打つことができました。

「仮想空間でバーチャル渋谷をつくってみたらおもしろいのではないか」というプロジェクトメンバーの一言で、チームが一丸となって開発を行い、企画から公開までわずか2ヵ月でアイデアが実現しました。KDDIですべてつくるのではなく、多彩なアイデアや技術を持ったスタートアップと連携したり、渋谷5Gエンターテイメントプロジェクトを行うなかで構築されたさまざまな企業とのネットワークを活用したことが、スピーディーな事業展開と軌道修正を可能にしたのだと思います。

「都市連動型メタバース」が社会を変えていく

バーチャル渋谷のキーワードは2つ。「都市との連動」と「UGC (ユーザー生成コンテンツ)」です。例えば、企業や店舗がバーチャル空間上に出店する一方で、渋谷のリアルセットをプログラムやサービス開発のための接点として一般ユーザーに提供し、バーチャルの街なかにセレクトショップを出すというような広がりを起こしていきたい。ただ、KDDI一社ではそれを実現することはできません。街が持っている魅力は地域の方がもっともよくわかっているし、コンテンツも中央集権的な方法ではおもしろくならない。我々とさまざまな企業、ユーザーが連携し、みんなでつくっていくことで価値ある体験ができあがるのだと思います。

都市が持つ魅力を、そこから遠く離れた人々にも発信する。バーチャル渋谷を筆頭にした都市連動型メタバースの取り組みを通じて、そうした機会の拡大に貢献していきたいと思っています。KDDIが目指す都市連動型メタバースは、ジェンダー・年齢・障がいなどに関わりなく、誰もが活躍できる社会を実現する手段のひとつだと考えています。多様性が尊重される社会は、個々の強みが生かされる環境によって生まれるのではないでしょうか。個人的には、メタバースの進展を可能にするテクノロジーが、社会に与える変化・影響に関心があります。

「明日」を描くチームでありたい

バーチャル渋谷は、渋谷駅周辺を仮想空間として再現することで、コロナ禍で「行ってはいけない場所の象徴」となった渋谷のイメージを変え、街でできなくなったイベントを開催する受け皿になりました。都市連動型メタバースは、コロナ禍における「密」という問題に対してひとつの解を示しつつ、地域のブランディングにも有効です。つまり、都市が持つ魅力を仮想空間で増幅し、国内外の人々に「価値ある新しい体験」として提供するプラットフォームにもなりえる。今後の取り組みを通じて、コロナ禍への対応と地域社会の持続、双方の社会課題を解決していきたいと考えています。

いまでこそ「メタバース」という言葉をよく耳にしますが、バーチャル渋谷を構想し始めた当時はそれほど一般的な言葉ではありませんでした。「それ、実現できたらおもしろいよね」という気持ちが行動力の原点になっていたからこそ、バーチャル渋谷は生まれました。KDDIはそうした高いモチベーションと好奇心を持ったメンバーが集まる場所であり、ここで働く毎日はとても刺激的です。これからも、KDDIのブランドスローガンである「Tomorrow, Together」を体現するチームであり続けるために、街や人、社会全体と連携しながら、テクノロジーが現実の生活に恩恵をもたらす「明日」を描いていきたいと思います。

  • 所属・内容等は取材当時のものです。