2013年度ステークホルダーダイアログ (環境)

環境への取り組みとKDDIへの期待

環境分野に詳しい有識者をお招きし、「低炭素社会の構築」と「生物多様性の保全」をテーマに、KDDIの各担当者と活発な対話を行いました。

お招きした有識者の皆さま

エクベリ 聡子氏
イースクエア取締役
東北大学大学院環境科学研究科特別講師

小野田 弘士氏
早稲田大学環境総合研究センター准教授
早稲田環境研究所 会長

第1部 低炭素社会の構築に向けて取り組むべき課題

サプライチェーンも視野に入れた物流システムの効率化を

エクベリ: 今の社会課題は何らかの形で気候変動に関わっています。COP19 (第19回 気候変動枠組条約締約国会議) で日本が表明したCO2排出量の削減目標が消極的と指摘され、一方で、電機・電子産業の団体は「2008年~12年の生産に関わる平均CO2排出量が90年比で43%増加 (原単位48%減)」と発表しましたが、これをどう見るか。また、気候変動による洪水や干ばつが深刻化するなかで、新興国や発展途上国の持続可能な発展モデルをともに考える必要があります。状況を改善する上で企業が果たす役割は大きく、「低炭素社会を構築するために何ができ、その土壌づくりに何が必要か」を議論できればと思います。

小野田: 企業の温暖化対策で、バリューチェーンのCO2排出量も管理して情報開示する「スコープ3」(※) が注目されています。従来の省エネだけでは排出削減が難しく、取引先や社員の通勤、部品調達なども含めた対策が必要だからです。一方で、社会への貢献度を示す「スコープ4」という発想も議論され始めています。例えば、太陽光発電・蓄電池・電気自動車などのエコ製品は、CO2排出量を抑制できますが、その部材を生産する企業のCO2排出量は増えてしまいます。この増減に着目し「自分たちが排出するCO2は増えたが、社会のCO2削減にはこれだけ貢献した」ことを数値化する考え方が「スコープ4」です。

  • 企業による温室効果ガス排出量の算定・報告の対象となる「範囲 (スコープ) 」の一つ。

司会: KDDIの場合、通信の消費電力量が増加しても、出張など、移動をともなう会議がKDDI回線によるテレビ会議によって削減されたり、紙で輸送していた大量の資料がデータ送信されることで、その分CO2排出量を削減しているとも考えられますね。

KDDI: 貢献度の算出ルール (例 スコープ4) が確立されれば検討する価値がありますね。現在、私たちがCO2排出削減で注力しているのが多種多様な物流の効率化です。製品を取引先から各地の物流センターに集約してauショップや量販店に配送したり、回収した携帯電話をメーカーに戻したり、基地局用の資材を全国に配送するなどの物流を効率化し、スピード化とコスト低減を図るべく、検討を進めています。

小野田: 損害保険業界では、エコドライブを推奨することで車両事故を減らして保険金の支払額を低減し、同時に環境負荷も削減する取り組みを行っています。つまり燃費のデータを管理することで無理な運転が減って事故が減少し、CO2排出量も減るので、運送事業者の事故率に着目して燃費管理とエコドライブを徹底するわけです。また、基幹物流と末端に届ける宅配や個別配送では、後者を管理しないとCO2排出量は減らないので、KDDIも小分けの物流対策を優先すべきでしょう。さらに「帰り便」をいかに活用するか、他に持って帰れる品物はないか、あるいは異業種と連携した共同輸送とか。

KDDI: 物流センターから先のauショップや量販店への配送や地域ごとの状況を精査して改善する余地はあると思います。

エクベリ: 包装・梱包材の工夫でトラックの積載量を効率化した例は多々ありますが、業界を問わず共同研究し、情報共有すべきですね。飲料メーカーではライバル同士が物流拠点を共有し、互いの商品を量販店などに配送してコストもCO2排出量も減らしています。

KDDI: 携帯電話の業界では、まだライバルとの共同輸送は難しいですが、海外メーカーの製品調達では、梱包の小型化を要請して荷姿を小さくし、運送費・コンテナ費も圧縮しています。国内の配送拠点では年間約2,000万個が動いていますが輸送回数の削減に注力しています。

エクベリ: 各部門の目標やノウハウを連携して有効活用することでグループ全体を効率化する仕組みが重要です。米国の大手IT企業は、社内で発生したCO2を取引する「カーボン・オフセット制度」を導入しています。自部門で排出したCO2に課金し、低減すれば他部署と取引して、再生可能エネルギーを購入する資金等に充てる先駆的な取り組みです。

KDDI: 数年前、携帯電話のグローバルメーカーと取引を始める際、世界の環境仕様の厳しさを痛感した経験があります。auはそれまで全メーカーを同じ箱で梱包していましたが、グローバルメーカーは航空便用に極めて小さく軽量な梱包をしていました。これを機に2009年から箱や取扱説明書の小型軽量化を加速しています。スマートフォン (以下スマホ) は段ボールや内箱の形状で製品を保護していますが、さらに紙の消費量を少なくしようと製紙会社や印刷会社と連携して開発しています。取扱説明書も基本的な情報はアプリケーション (以下、アプリ) やホームページで見られるので、電子化を進めつつ紙の削減に努めています。

司会: 製品の性能で注力している取り組みは何ですか?

KDDI: お客さまが最重視するのは電池寿命で、消費電力の削減をメーカーに要請しています。かつての携帯電話は電池が1週間ほど保ちましたが、初期のスマホはお客さまの使い方によってはフル充電しても1日保ちませんでした。我々は電池開発には関われませんが、KDDIが提供するアプリの消費電力の削減などに注力しています。

スマホを社会の課題解決のツールとするために

司会: いま、CSR (社会的責任) から本業に即した形で社会的課題を解決する「CSV (Creating Shared Value: 共通価値の創造)」が注目されています。スマホの活用でお客さまのCO2排出量を削減し社会の課題解決を図る視点について、いかがでしょう?

小野田: KDDIは売電事業に参入しましたが、この方向性が最もすっきりします。例えば、バイオマス発電などでつくった電気をKDDIが買い取って事業で消費する。メガソーラーをやるなら売電よりKDDIの基地局向けに自家消費する。いま電力需給のパラダイムシフトが起きています。製造業では電力会社の電気は高いからという理由で、自社工場向けの電気は自ら調達する動きが鮮明です。また、情報と同時に電気も届けるという発想でいけばすべてが有効的につながる。KDDIはモバイルという出口を持ち、ケーブルや基地局などのインフラも持っているから、この分野への参入障壁は低いはずです。

エクベリ: CSV視点では「発想を飛ばす」ことが重要です。例えば、これだけ普及したモバイルをミニ発電機と考え、大きな自然災害が起きたときに、それらをつなげてまとまった電源にする仕組みを考えるとか。ハイブリッド車を家庭用電源にも活用するのと同じです。

KDDI: ハイブリッド車の電源としての活用法をモバイルに展開する発想はありませんでした。可能性を広げるヒントになりますね。

エクベリ: アフリカではモバイルがさまざまな使われ方をしています。懐中電灯や時計として、あるいは銀行の口座として。日本では、モバイルはモノがあふれる社会のなかで誕生したので、その可能性が狭い範囲でしか捉えられていません。アフリカの目線で考えれば、小さな端末が大きな可能性を持っていることに気づかされます。

小野田: ただ、シンプルに考えることも重要です。物流では効率化が即エコになるので徹底的に追求する。また、スマホは製品ライフサイクルの視点では成熟した商品とはいえず、進化の余地が十分にあります。最も重要なのは、KDDIはユーザとの接点を持っているのだから徹底的に市場の声を集めてメーカーにフィードバックする。それがコスト削減や機能性向上の原動力になり、CO2削減にもつながるので、直球勝負でいいと思います。

KDDI: 私どもも電池消費をどれだけ抑えるかという基準を設けて、メーカーに性能向上を促し、負荷の大きなアプリやハードウエアがあれば徹底的に削減する取り組みを続けています。市場の声については、使い方や使う地域、電車通勤やクルマ通勤、年齢層など、利用実態の把握に注力しています。スマホとの接触時間、何のアプリを、いつどこで使うかによって電池消費が変わりますが、こうした調査からメーカーとは違うテーマやアプローチが浮上すると考えています。

第2部 生物多様性の保全に向けて取り組むべき課題

事業のプラス面とマイナス影響の整理・分析が第一歩

司会: 生物多様性保全の範囲はきわめて広く、事業活動との接点が見えにくいのが現状です。このテーマをどのように捉えればいいのでしょう?

エクベリ: まず自社で使う資源・エネルギーが生物多様性にどのような影響をおよぼしているかを整理して、環境リスクとプラス効果を分析・把握することが必要です。例えば、IT技術の進歩で希少生物の行動調査などに貢献しているというプラス側面がある一方で、製品の性能向上に使われる希少金属の採掘で生態系が脅かされるというマイナス面も生じています。特に後者は紛争鉱物として国際的な規制が強化され、さまざまな業界の代表者が参加して会議が開催されています。そこではサプライチェーンまで含めた基準や規制づくりが議論されますから、通信事業者の一員としてこうした場に参加することで、環境リスクを回避し、取り組みのヒントを探れると思います。

KDDI: 紛争鉱物は採掘に携わる人々に人道上の問題があることから、KDDIでは調達する製品に使われないようメーカーを調査し、検証作業を行っています。特に米国ではメーカーに厳しい開示義務が課せられているので、各メーカーの対応も注視しながら取り組みの徹底に努めています。

KDDI: IT技術を活用したプラスの側面としては、2008年からKDDI研究所が大学・NGOと共同で、絶滅危惧種ガンジスカワイルカの生態調査に参加している事例があります。濁った河川での目視観察が難しいため、音響観測システムを使って頭数や出産状況をはじめカワイルカの生態を調べて保護活動に役立てようとするものです。

エクベリ: 高度な通信技術を活かした活動ですね。生物多様性はITとかけ離れた領域と捉えがちですが、効果的な保護対策を行うには基礎データを採取した上で行動分析することが不可欠で、こうした領域で貢献できる可能性は大きいと思います。

日常に生物多様性の保全に貢献できる入口が

小野田: 農林業などの一次産業はIT化が進んでいませんが、最近では警備会社が害獣対策用の警報システムを商品化しています。シカ・イノシシ・サルの捕獲用に設置したワナに害獣がかかると管理者にメールで知らせるもので、広範囲の見回りにかかる労力が大幅に軽減されたそうです。増えすぎたシカの駆除は、生態系の維持、森林被害の防止ひいては自然災害の抑止にもつながります。また、口蹄疫等の対策には一頭ごとの管理が重要ですが、ここにもITの出番があります。地域の困りごとを解決するソリューションを提供するタネは数多くあるので社会貢献を入口にニーズを探り、そこから生物多様性に関わるテーマを発見できるでしょう。

KDDI: 今のお話に関連する活動として、2007年から携帯電話に同梱され、後に不要となった「取扱説明書・パンフレット・チラシ」と「本体の包装箱」を全国のauショップで回収して再生し、封筒・パンフレットとして再利用する、「取説リサイクル」という活動をしています。また、回収した古紙を製紙会社に売却した古紙買取金は、間伐などの森林保全に活用しています。2012年からは搬出した間伐材を使って、au携帯電話をご利用のお客さま向けに、「スマホスタンド」「卓上カレンダー」「木製コースター」などのオリジナルノベルティを制作して配布し、岩手県釜石市にバス待合所の寄贈もしています。今後も、「取説リサイクル」は、国内森林保全につながる活動としていきたいと考えています。

小野田: 生物多様性というおおげさな切り口で考えると、どんな接点があるか見えにくいのですが、間伐材ならば山、山といえば携帯電話の基地局があって地域社会とつながる。海底ケーブルであれば、漁業と深いつながりがあります。技術による貢献もいいのですが、「日常のなかで接点のある地域」という視点で捉えると間口が広がります。特産品をスマホで紹介するとか、まとめて調達するとか、個人購入で応援してもいい。社員がそんな気持ちで地域とお付き合いすれば、KDDIグループなら大きなパワーになり、それが新たなきっかけや連携を生み、巡り巡って生物多様性の保全につながると思います。

KDDI: 気軽にできる特産品の購入を生物多様性に結びつけていただき、少しホッとしました。そもそも何をすれば生物多様性に貢献できるのか、なかなか見えません。冒頭に紹介したグローバルメーカーとの取引を契機に社員の環境意識が変わりましたが、そうした外部の刺激と同時に「自分は何をすべきか」と常に考え、気づきが得られるような仕組みが必要ですね。

エクベリ: 教育的な視点で例をあげると、ある金融機関はボランティア活動に積極的に参加し、よいアイデアを提案した社員を顕彰する制度を設けて成果を上げています。また、ある情報機器メーカーは、有志が集まって途上国の社会課題からビジネスチャンスを見出すプロジェクトをつくったところ、自社の可能性を再発見し、現地派遣型の研修制度が生まれるなど社内の活性化に役立っているそうです。

KDDI: ありがとうございました。本日はさまざまな角度や視点から斬新なご提案、多くの好事例をご紹介いただき、多くの気づきを得ることができました。このセッションに参加した社員は、各部署に持ち帰って意識啓発に役立てるとともに、取り組みの深掘りや見直し、また新たな展開に向けた目標設定や仕組みづくりに活用させていただきます。