「そなえる安心×つなぐチカラ」の共創によるレジリエントで暮らしやすい社会の実現
10月28日と29日の2日間に渡って開催された「KDDI SUMMIT 2025」。
「『そなえる安心×つなぐチカラ』の共創によるレジリエントで暮らしやすい社会の実現」と題して、イベントの最後に行われた講演には、KDDI代表取締役社長 CEOの松田浩路と、新しい料金プラン、auバリューリンクプランに「地震の備えサポート」(2025年内に提供開始予定)を提供する、あいおいニッセイ同和損害保険 代表取締役社長 新納啓介氏、同取締役常務執行役員 毛利吉成氏、KDDI 取締役執行役員常務 CSO 兼 CDOの勝木朋彦が登壇し、地域社会への貢献をテーマにプレゼンテーションとトークセッションが行われました。
目次
あいおいニッセイ同和損害保険とKDDIの協業
講演は最初に松田が、テクノロジーとリアルの「循環」、さらには社会価値を事業価値につなげていく「循環」の重要性を指摘。また、あいおいニッセイ同和損害保険とKDDIの協業について説明しました。
両社は2010年、共同出資でau損保を立ち上げ、自転車保険やペット、ゴルフなどの保険へ、スマホを介して加入できるサービスを提供しています。2025年の年内には「第2の協業」として、両社のリソースとアセットを活用して誕生した「地震の備えサポート」の提供が始まる予定です。
「地震の備えサポート」は、震度7の地震発生時に3万円の保険金が受け取れる保険。家屋などの損害状況を確認することなく、気象庁が公表する震度データと加入者の住所情報に基づき、保険金をau PAY 残高にチャージ、もしくは指定の銀行口座で最短当日に受け取れます。au PAY 残高はローソン銀行ATMなどで現金化できるようになっているのです。
ちなみに、地震の備えサポートはauバリューリンクプランに内包される形で提供され、追加で保険料を支払わなくていいのも特徴。
通信と保険の融合で新しい価値を提供
次に、あいおいニッセイ同和損保の新納氏が「保険と通信の融合による新たな価値の創造」というテーマでプレゼンテーション。「不確実、不透明な時代に、様々なパートナーと共に保険を進化させる」「伝統的な保険の世界にゲームチェンジを仕掛けていかなければならない」という思いを語りました。
これらを実現するために、同社が目指しているのが「CSV×DX」です。
CSV、つまり“社会との共通価値の創造”とデジタルトランスフォーメーション(DX)を掛け合わせることによって保険を進化させます。その上で、社会にとって有益な共通価値を創出し、価値が連鎖していく世界を目指すというわけです。
「これまでの保険会社は、事故が発生した際に保険金をお支払いすることがメイン機能でした。ただ、これでは事故を起こしたお客さまだけへの限られたサービスに留まってしまう。我々が挑戦してきたのは、事故を起こさない保険への進化。すべてのお客さまへの安心の提供。さらには地域全体への安心の提供。こういった新たな価値創造です」(新納氏)
その代表例として挙げられたのが「テレマティクス自動車保険」。
スマホやドライブレコーダーなど、車に搭載するさまざまなデバイスと保険会社を通信技術でつなげることにより、安全運転アドバイスや安全運転スコアに応じた保険料の設定など、従来の自動車保険にはない新たな価値を提供しています。
具体的には、車の衝撃を検知すると保険会社から自動的に連絡が届き、初期対応に必要なアドバイスを提供されます。その際、事故に遭った場所や車の速度も、保険会社側に通知されます。
また、蓄積された走行データは安全安心な街づくりに役立てられると言います。
たとえば、急ブレーキが多い場所をデータで分析することで、通学路の見直しに役立てたり、標識を設置するきっかけになったりしているのです。はたまた、車の振動データを活用して道路整備にも役立てているとか。
新納氏によると、「走行データに基づく安全運転のサポートによって事故は15%、低減。2018年のサービス開始から累計で約10万件の事故を防止した」ことになるそうです。
さらに、急ブレーキや急発進をしないことは、エコドライブにつながり、CO2の累計削減量が約1年間で7.5万トンに。スギの木の年間吸収量に換算すると850万本に相当するものです。
ちなみに、同社の収集したテレマティクスデータから、高輪ゲートウェイ周辺の交通安全マップを作成したところ、2023年には駅周辺での急減速発生地点が1か所だけでした。
しかし、2024年には大きく増加。街開きによって交通量が増えたためだと推測されています。特に駅前のトンネルで急ブレーキが多発しているそう。
あいおいニッセイ同和損保では、同じようなテレマティクスデータをもとにする交通安全マップを作成。自治体や警察と連携しながら安全安心なまちづくりの取り組みを、全国各地で進めています。
ドローンやStarlinkも活用
あいおいニッセイ同和損保とKDDIとの第2の協業では、“レジリエントでより暮らしやすい社会”の実現に向けて、「日常の安心・安全」「大規模災害」「より豊かな社会へ」という3テーマで保険と通信を融合した取り組みが進められています。
「地震の備えサポート」に加え、すでに取り組んでいる事例として、「KDDI SUMMIT」では、KDDIのスマートドローンを活用した事例やStarlinkを活用した事例も紹介されました。
スマートドローンの事例は、インフラの老朽化対策としてドローンによる点検と保険を組み合わせ、事故を未然に防止することを目指しつつ、万が一の場合には保険でカバーするというパッケージ。
一方、Starlinkの事例は、あいおいニッセイ同和損保の全国の拠点を通じて、自治体に対してStarlinkを紹介しています。
「当社は現在558の自治体と連携協定を締結して地方創生の取り組みを展開しており、100種類以上の支援メニューを提供している。その中にStarlinkをラインアップする」と語る新納氏。
たとえば、Starlinkを利用して一時的に通信量が増えた場合には、保険を使ってカバーできるようにするという商品を年度内にリリースする予定であることも語られました。
より豊かな社会の実現に向けた取り組みとしては、自動運転ロボットなど最先端のテクノロジーによる潜在的なリスクを両社で検討し、新たな保険商品を開発していきます。
新納氏は「保険と通信の融合がもたらす可能性は無限大。様々な領域で新たな価値を共創して、その先にあるレジリエントで、より暮らしやすい社会の実現を目指していきたい」と締めくくりました。
3テーマでディスカッション
後半は4氏によるトークセッションです。テーマは「日常の安心・安全」「大規模災害」「より豊かな社会へ」という3つが掲げられました。
まず「日常の安心・安全」では、日本の社会インフラの老朽化問題を議論していきます。
2040年には上下水道管の30~40%以上が築50年を超え、今後30年間のインフラ保全には約190~280兆円もの費用がかかるという試算があります。点検の不備や手法の限界による事故も発生しています。
あいおいニッセイ同和損保の毛利氏は、「事故のリスクが高まると当然、保険金の支払いに影響する。それは保険料の上昇につながる可能性があり、保険料負担のコスト増に行き着く。企業の立場で置き換えると、保険料が上昇すると予定していた投資の先送りにつながる可能性もある」と指摘しました。
この問題に対し、KDDIの勝木はドローンによるインフラ点検の有効性を紹介しました。
ドローンは基地局の鉄塔だけでなく、送電鉄塔や水力発電所のダム、トンネルの点検などにも使われています。「最近の小さいドローンだと直径50センチメートルの下水管に入っていって点検ができる」(勝木)といった特徴があり、事故の未然防止や被害軽減への期待が語られました。
新納氏は、ドローンパイロットの育成を課題の1つとして挙げます。そこで両社の協業により、KDDIによるドローンスクールに受講者を紹介していることにも触れられ、「受講したパイロットが7割以上になったら、その企業や自治体のドローンに対する保険料の割引を行うといった協業もできる」と語っていました。
こうした取り組みを通じ、将来的には、事故データをAIで分析することで新たな保険商品の可能性があると言います。
「大規模災害」のテーマでは、今後30年以内に高い確率で発生するとされる南海トラフ地震や首都直下型地震などに備え、迅速な保険金支払いの重要性が強調され、「地震の備えサポート」についても、あらためて言及されました。
新納氏は「いろんなハードルを乗り越えて、やっと実現した。とにかく早く被災者のお手元に当座の資金だけでもお届けできないかという思いで交渉を重ねてやってきた」と開発の苦労を振り返ります。
また、「料金プランにセットで付帯していただくということで、両社のかけ算で初めて実現したスキームじゃないか」と成果に喜びを見せる場面も。
勝木も「料金プランの契約者が増えるごとに保険の加入者が増える。一気に数百万のお客さまに広がっていくことに、我々もお役に立てることを喜んでいる。料金に反映させた形で、次の商品開発を目指す。通信と保険のかけ合わせで、お客さまにさまざまな便益を提供できる」と応じていました。
松田は、日常的に使っているスマホやATM、au PAYで保険金を扱えることのメリットを指摘。それを受けた新納氏は「ローソンという身近にあるコンビニで使える。ここがキー」とも語っていました。
普段使いのサービスといざというときの備えという、平時と有事を区別しない「フェーズフリー」の重要性があらためて浮き彫りになり、ドローンポートを平時から設置することの必要性も示されました。
「より豊かな社会へ」のテーマでは、AIの活用についてディスカッションが中心になりました。
あいおいニッセイ同和損保の社内では、業務効率の向上に活用されているほか、社会課題解決の仕組みを作る上でも活用されているそう。
英オックスフォードに研究開発ラボが設立されており、保険金の支払いが適正に行われているかをチェックする仕組みなども構築し、すでにシステムに導入されています。
勝木は、高輪ゲートウェイにあるKDDIの新社屋やその周辺で自動運転ロボットが活用されていることを挙げ、「新しいテクノロジーの導入によって新たな体験や価値が生まれる一方で、リスクも高まる。街づくりの中で安全安心をしっかり作っていくためにも、ロボットのデータで新たな保険商品の開発につなげていくなど、協力していきたい」と意気込みを見せました。
毛利氏はスマホを活用して得られるデータの可能性に期待感を示します。「人流、ロボット、スマートグラス、こういったものから得られるデータと、当社の保険金の支払いのデータやテレマティクスのデータなどを複合的に重ねることによって、新たな商品設計ができそう」と話しました。
通信会社と保険会社で日々集まるデータ、この2つの組み合わせ、両社の共創やかけ算によって生まれる新しい価値。3つのテーマによるディスカッションを通じ、4氏とも大きな期待を寄せていました。
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