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地域共創(Te to Te)
地域共創の取り組み事例
未来のクリエイターを秋田から。アートとテクノロジーの「対話」が拓く、新たな地域共創のカタチ
未来のクリエイターを秋田から。アートとテクノロジーの「対話」が拓く、新たな地域共創のカタチ
2026/03/26

秋田市は地場産品や歴史・文化、アートなどの地域資源を活かし、地域の魅力発信に取り組んでいる。これを契機に、秋田市、秋田公立美術大学、NPO法人アーツセンターあきた(以下、ACA)、KDDIの4者が新たな連携を開始した。連携の現場ではNFTという未知の技術への戸惑いや「学生が作品を売ること」への葛藤を抱きながら対話と学びを重ね、学生たちが挑戦する機会の創出につなげてきた。今回は、関係者にプロジェクトの背景や今後の展望を伺った。
目次
背景と課題

KDDIアジャイル開発センター 秋田サテライトオフィス
伊藤 健一氏
KDDIアジャイル開発センター 秋田サテライトオフィス伊藤さま:このプロジェクトは、2023年4月、私がKDDIから出向となり、出身地の秋田市に東北地域で最初のオフィス設置をしたいとの相談で秋田市を訪問した際に始まりました。当時、秋田市はふるさと納税の申し込み件数、寄付額の伸び悩みに課題を抱えていました。一方、KDDIはメタバースやWeb3など最先端のデジタルサービスを提供する次世代のプラットフォーム「αU」を立ち上げた直後。この新しいプラットフォームと、地域が誇る才能の宝庫である秋田公立美術大学の学生によるアート作品を組み合わせ、デジタルアートとしてNFT化し、ふるさと納税の返礼品とするアイデアを思いつき、KDDIの「αU」担当者へ相談して、一緒に秋田市様へご提案しました。これは、市の課題解決と同時に、美大生の作品発表の機会にならないかと考えました。

秋田市企画財政部 人口減少・移住定住対策課
ふるさと納税推進担当 石川 樹里氏
秋田市:秋田市では、ふるさと納税をシティプロモーションの重要な一手と捉え、地場産品のみならず、歴史・文化、そしてアートといった地域資源を返礼品に活用し、市の魅力を発信できないかと検討していました。
なかでも、市内に公立美術大学が存在することは、ほかにはない「地域の強み」です。美大生や卒業生が制作するNFTアートを返礼品にすることは、秋田市独自の価値を全国に発信する機会になると、提案に期待を寄せました。この提案を具体的な形にするため、地域のアートシーンを牽引する秋田公立美術大学と、美大の社会連携を担う学外法人であるACAとの橋渡しをさせていただきました。
プロジェクト初期のギャップを乗り越え、実現へ
始まりにあった「温度差」
― KDDIの熱量に、大学側の反応はいかがでしたか?

NPO法人アーツセンターあきた 岩根 裕子氏
ACA:プロジェクト開始当初、大学側の反応は慎重でした。当時、NFTは一過性のブームとみる動きもあり、作品性よりも、金銭的な価値が注目されがちだったため、芸術を学ぶ現場には、戸惑いや慎重な見方が広がっていました。
大学関係者も「ふるさと納税の購入者層と、アートのファン層は一致するのか」「NFTと秋田公立美大から生まれる作品との親和性はあるのか」といった根本的な疑問を抱えていました。
教員たちからは「学生が不当に搾取されることにならないか」「専門的に教えられる教員がいない」といった、より切実な懸念の声も上がり、学生に興味を持ってもらうことが難しいのではないかという心配が先に立ちました。
ところが、プロジェクトを後押しする意外な事実が判明します。事前に実施したアンケートで、回答した学生の約半数が「NFTに興味がある」とし、ふるさと納税への興味も30%にのぼりました。
この結果を受け、「まずは一度、挑戦してみよう」と、プロジェクトは動き出すことになります。まずは、興味を持ってくれた学生を対象に勉強会を開き、少しずつ理解を深めてもらうという、地道な「浸透」活動からスタートしました。

KDDIオープンイノベーション推進本部 OIビジネス開発部
青木 里帆
KDDI:KDDIとして、この取り組みでは「秋田への貢献」を明確な目標に置いていました。
東北で唯一の公立美術大学という強みと、ふるさと納税という地域資源を掛け合わせることで、何か支援できる形があるのではないか、そんな思いからの提案でした。しかし、お客さまの反応は想像以上にシビアでした。今振り返ると、技術や仕組みの説明が先行してしまい、地域の方や学生の皆さんを含む関係者の意識を「NFTアート作品を作ること」自体に向けてしまっていたように思います。2年目からは、「アートの価値を、NFTを通じてお客さまに伝えていく」という考え方へ、少しずつ軸足を移していきました。NFTはあくまでも手段であり、価値そのものではない。その認識を、対話を重ねながら関係者の間で共有していけたことは、大きな変化だったと感じています。技術側の当たり前と、地域や学生が向き合っている現実との間にあるギャップを理解し、時間をかけて埋めていく。その大切さを、この取り組みを通じて学びました。
戸惑いを創造のエネルギーへ
― 学生たちの中には「作品を売ることへの戸惑い」も。どのように意識の変化を促していったのでしょうか?
ACA:何よりも「対話」と「学習」の機会を丁寧に設けることを重視しました。一方的に進めるのではなく、なぜ取り組むのか、その可能性を共有する必要があると感じ、秋田公立美術大学の教授である、美術家の藤浩志が出演する動画「秋田公立美大がNFTはじめたってよ」を制作・公開するなど、NFTへの疑問や懸念をオープンに語り合うことで、学内での議論のきっかけ作りを行いました。
秋田公立美術大学:現役の学生は、「作品づくり」が本分のため、販売や事業として展開していくことには不安もあり、卒業生の方々に声をかけるところから始めました。NFTを単なる「売買の技術」ではなく、「唯一無二の価値を証明し、作者と所有者の関係性を記録する技術」として捉え直す勉強会も複数回開催しました。作品を美術館で展示しても期間限定での展示になるため、デジタルを用いて、アーカイブのような役割にもなると考えました。
― そのようなプロセスを経て、どのような作品が生まれたのでしょうか?
秋田公立美術大学:学生たちは、当初は不安を抱きながらも前向きに、多様な作品を生み出してくれました。これは、彼らがNFTを自分なりに解釈し、自身の専門分野や関心事と掛け合わせた結果と考えています。学生たちがテクノロジーを「使う」のではなく、テクノロジーと「対話」しながらアートの新たな可能性を自ら切り拓いた作品です。
25年度ふるさと納税に出品された作品
- 安藤帆乃香氏
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現実に存在した花を3Dスキャンし作られた作品。切り取られた瞬間から枯れていく運命を持った切り花を、スキャンという行為を通して擬似的にその姿を永続的に留めます。
購入者特典として、購入者のお名前入りの戴冠式証明書を受け取ることができます。
- 柴田光友氏
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ふだらく研究者によるNFT作品。秋田に伝わる民間の御詠歌「ふだらく」を採譜し、楽譜としてNFT化することで、地域文化の記録と発信を試みる作品。

- 牧野心士氏
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「忘れたくないこと」を残すための表現としてグラフィティを用いた絵画作品のほか、技法と世界観を活かしたイラスト・グッズなど幅広いジャンルで制作を行う牧野心士のNFT作品。彼自身の日記シリーズのNFTに加え、オーダーメイドで購入者の「シンボル」を描くNFTも秋田市ふるさと納税限定で出品しています。いずれもデータダウンロードと印刷カードを進呈。

変化の兆し 理解の深まりと共通認識の形成
― このプロジェクトは、ふるさと納税の返礼品としても採用されました。これはどのように実現したのでしょうか?
秋田市:ふるさと納税の返礼品とするには、総務省が定める「地場産品基準」を満たす必要があります。物理的な製品と異なり、デジタルデータであるNFTをどう「その地域で制作されたもの」として認めてもらうかが最大の課題でしたが、アイデアの創出からデジタルデータの作成まで、主要な工程が秋田市内で行われていることを粘り強く伝え実現しました。
また、この取り組みが、秋田市のシティプロモーションである「若者の挑戦を応援するまち」を具現化するとともに、寄付を通じて全国から若きクリエイターを応援してもらうという、ひとつの地域貢献の仕組みになると考えています。
取り組みの成果と学び
ふるさと納税×アートNFTの挑戦
― このプロジェクトを通じて得られた、最も大きな成果とは何だったとお考えですか?
秋田市:収益やメディア露出といった目に見える成果だけでなく、この挑戦によって、得られた知見、ネットワークは、秋田市のノウハウとして蓄積されています。現在のふるさと納税市場は、自治体への「応援」よりも、返礼品の「おトク感(コスパ)」を重視する傾向が強まっていますが、こうした市場環境の変化を踏まえ、既存の返礼品競争に固執するのではなく、より本質的な「地域のファンづくり」を大切にしたいと考えています。寄付者との、息の長い関係性を築くための新たな返礼品検討とふるさと納税事業の展開に今回の経験をいかしていきたいです。

秋田市企画財政部人口減少・移住定住対策課ふるさと納税推進ご担当の皆さま
ACA:美大や学生が新たな技術や取り組みに挑戦する機会として良かったと振り返ります。また、NFTという新しい技術と秋田公立美大で生まれるアートとの親和性について、手応えも感じ始めています。当初は、さまざまな疑問や不安があり、それらを乗り越えるために時間を要したものの、私たちの粘り強い中間支援がいきる事例にもなったと考えています。
秋田公立美術大学:学生の参加促進や、販売できる作品を生み出す難易度は、とても高かったです。また、2年間の取り組みを通じて知見がついてきたところで、一区切りというのは残念ですが、今後も学生が作品を「売れる場所」を提供することは継続していきたいです。
KDDI:アート作品の新たな流通手段として、ブロックチェーン上で作品を展開するWeb3と呼ばれるような新たな世界であっても、「その対価を支払う価値があるのか」という問いの本質は、これまでと何一つ変わりません。この取り組みをご提案した当時、日本国内ではまだ前例が少なく、手探りの状態からのスタートでした。そのような状況の中で、秋田公立美術大学、ACA、そして何より学生、卒業生の皆さまが、アーリーアダプターとしてご参画くださり、最後まで同じメンバーで一丸となって取り組めたことに、心から感謝しています。本プロジェクトを通じて、世の中に一つの「事例」を残すことができたことは意義ある成果だと感じています。
ブロックチェーンやそれに紐づく暗号資産の分野は、今後も制度の整備とともに、さらなる広がりが期待される領域です。時代の変化に向き合いながら、新たな流通網の可能性を研究し続けていきたいと考えています。そして、次世代を担う若い芸術家たちが、秋田、そして日本の地から世界へ向けて挑戦し続けられるよう、対話と実践を重ねていきたいと思っています。
