今までなかった選択肢を
発明しよう。

アップサイクルを新常識に

KDDI総合研究所
KDDI research atelier
フューチャーデザイン2部門

渡邉 慎也

学生時代にはナノ材料の研究とビジネスエンジニアリングを学び、修士を取得。入社後はサービス企画に携わったのち、KDDI総合研究所でのシンクタンク部門に配属。現在はKDDI research atelierで、生活者を起点にCPS (サイバーフィジカルシステム) を活用した新たなライフスタイルを創出するプロジェクトをリードしている。

新しい「つながり」をデザインする、KDDI research atelierのミッション

テクノロジーの進化によって、人やモノ同士の「つながり」のあり方が大きく様変わりしています。通信会社としてのKDDIが担うべきミッションもまた、より広い視野で捉えなおしていく必要があります。

KDDI総合研究所のミッションは、10年後、20年後を見据え、生活者にとってより豊かな暮らしをKDDIのネットワークやテクノロジーを活用して実現することです。そのために、ライフスタイルリサーチと先端技術研究の両輪で活動しています。私が所属しているKDDI research atelierはライフスタイルリサーチを担当しており、その一歩として、未来のライフスタイルを先取りし、先進的な生活者と共創を推進する取り組み「FUTURE GATEWAY」を2021年8月に開始しました。

FUTURE GATEWAYでは、先進的なライフスタイルを実践する人たちとのつながりを重視し、ディスカッションから得られる今までにない新たなライフスタイルに注目します。そして、それが一般化していない課題を特定し、その課題をどのように解消するか検証を繰り返します。その人たちの視点と私たちの視点を組み合わせ、さらに企業パートナーも巻き込みながら、先進的なライフスタイルの社会実装に向けたプロジェクトを進めています。新しい生き方を一般化させることが私たちのミッションです。

畑違いの業界にこそ、KDDIのネットワークとテクノロジーの力を

KDDI research atelierのプロジェクトでは、課題解消の手法としてフィジカル (現実) 空間とサイバー (仮想) 空間を連携させる、CPS (サイバーフィジカルシステム) を活用しています。これは、現実世界で集めた多様なデータをサイバー空間で分析し、その結果をフィジカル空間にフィードバックする仕組みで、定量化・効率化によって社会課題を解決するDX (デジタルトランスフォーメーション) のひとつです。

長い間日本を支えてきた企業や、多くの事業者が入り乱れている業界の一部には、独特な商習慣が効率化を阻み、DXを主導する巨大なプレイヤーが存在しない場合があります。そのような場所には、エネルギー資源の無駄や製造ロス、人的リソースの非効率化などの課題が存在します。

そうした場所に、KDDIのような「つなげる」会社が第三者的に入っていくことで、状況を打破できるかもしれない。畑違いの私たちだからこそ取り払うことができる業界のしがらみがあると思いますし、テクノロジーの力を借りて、業界課題、社会課題の解決に寄与できればと思います。

全国に眠る「使われない"モノ"」の情報を集積する、アップサイクルのプラットフォーム

現在の取り組みのひとつに、ごみ問題という社会問題に対し、いままでとは違うアプローチやソリューションの視点で走り出したプロジェクトがあります。不要になった家具やインテリア、衣服などを、付加価値をつけて新しいものへと再生する「アップサイクル」の取り組みです。

アップサイクルを手掛ける企業は増えていますが、業界構造そのものを変えるまでには至っていません。当然のことながら、企業は競合他社の製品・サービスを改善するモチベーションは持ち得ません。そこで、KDDIが業界共通で利用可能な「アップサイクルプラットフォーム」を用意することができれば、既存企業に利益をもたらしながらも、ごみ問題解決の一助になるかもしれないと考えました。

プロジェクト推進の第1ステップを考えたときに、原材料になる不要品が規格化されていないことがボトルネックのひとつになると想定しました。不要品を素材として見ると、それらはすべて一点物で、さらに全国に分散しています。これらを素材として活用するためには、使いたい形状や材質、状態の把握や、どこにどれだけの数があるのかを1個1個把握する必要があります。

その解決のために、CPSによって全国に分散している不要品を3Dデータ化してサイバー空間に集め、さらにそのサイバー空間上で自由に組み合わせて、製造イメージを確認できるようなプラットフォームがあればよいのではと考え、その試作を開始しています。

また、このプラットフォームでどうやって付加価値をつけるかの検討も進めています。

アップサイクルから生まれる製品や作品は、付加価値があることで、長く繰り返し使ってもらえるものになると考えています。いま着手している家具やインテリアのアップサイクルでは、デザイナーやアーティストによる付加価値だけではなく、そこに宿る「愛着」も付加価値になり得るのではと考えています。

例えば、デザイナーやアーティストが完成度90%のデザインをします。そして、残りの10%を、購入者自身が自らの手で完成させるのです。そこに、自身の思い入れのある素材を使う。他にも買い手がどんなアップサイクル製品に高い価値を見出すのか、つくり手はどんな素材に魅力を感じるのか、ということもワークショップや実証実験を通して検証していきます。

「残念な当たり前」を取り除いて、多様な選択肢を残したい

将来的には、構築したプラットフォームを家具やインテリアだけでなく、アパレルなどさまざまな業界にも応用していければと思います。

KDDIがそれらの業界に進出して競合として争うのではなく、あくまで第三者だからこそできる業界共通プラットフォームの提供や、それを通じた業界全体のコスト分散・削減に貢献していく。そのような可能性があると考えています。一見関係のない業界や企業であっても、お互いのメリットを説明・共有しあうことで幅広くWin-Winな関係が築けることが理想です。

最近、20代の方々の話を聞き、彼らの環境問題やサステナビリティへの意識の高さを実感しています。そうした世代の仲間とも力を合わせて、多様な選択肢をつくることができたらと思います。さらに、それらの選択の阻害要因になったり、世代間の断絶の原因になったりしている「残念な当たり前」を取り除いていきたいです。それぞれの世代の人が当たり前と考えていることが実は違った、ジェネレーションギャップだ、という話はよくあります。そこをもう一歩踏み込んで、2030年からみるとそれって本当に当たり前なの?というように、別の視点からあるべき姿を探れればと思います。

社会課題の解決の一助となる仕組みをつくるような、20年、30年後の世界を見据えた仕事に携われていることは、すごく幸せだと思います。とはいえ、まずはひとつずつ成果を出していくことが大事。さまざまな実地検証を重ねて、正しく持続的に効果を生み出せる仕組みをつくっていきたいですね。

  • 所属・内容は取材当時のものです。