サステナブルな地域共創を目指すKDDIの取り組みとは

昨今、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、今あらためて「地域共創」というワードが注目を集めています。本稿では一般的な地域共創の持つ意味や課題などを紹介しつつ、その上で、KDDIが目指す地域共創=「地域が主体となったサステナブルな地域共創」の実現に向けた考え方や取り組みなどについてお伝えします。

地域共創が必要な理由

地域共創とは人口や経済が東京に一極集中した状態を解消し、地域格差をなくすために2014年から国が提唱している政策です。2020年に発表された総務省の「3大都市圏の転入超過数の推移」では、転入者数が転出者数を上回っている「転入超過」を、東京は24年連続で記録しています(該当項目へジャンプします※1)。日本全体で人口が急激に減っている上に、このように若者が仕事を求めて東京を中心とした都市部に移動するので、地方ではますます高齢化が進み、共同体の存続が危ぶまれる地域も出てきています。そういった事態を少しでも抑止するために地域共創は提唱され、2015年に国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の要素も取り入れて、自治体が地域共創を推進していくことが国としての方針となりました。

取組みと見えてきた課題

2020年を初年度として第2期の「まち・ひと・しごと創生」がスタートしました。近年、地域では新型コロナウイルス感染症の影響やビジネス潮流の変化から、デジタル技術を活用し、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土をより良く、より効率的に変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を用いた施策の推進が推奨されています。
このほか、自治体とベンチャー企業が手を組んで新しいビジネスを興したり、若者が移住しやすいよう環境を整えて補助金を出したりするなど、地域の抱える課題ごとにさまざまな施策の検討・実施も全国で行われています。
そういった動きが活発になる一方、地域により解決すべき課題や人的リソース、保有資源などはそれぞれ条件が異なってくるので、すべての地域に当てはまる万能な解決策というものは存在せず、それぞれの課題に沿ってどうすれば地域をより活性化し、多くの人が集まる魅力的な地域にできるかといったことを、ケースバイケースで考えていかなければいけないのが難しいところと言えます。

最先端技術を活用したKDDIの地域課題解決

KDDIではこれまでそのようなケースバイケースの地域の課題に対して、地方自治体やパートナー企業と連携し、IoTやICTといった先端技術を活用することで、その解決に取り組んできました。

福井県小浜市:IoTによる養殖効率化で「鯖街道」がよみがえる

かつて京都へ鯖を運ぶ「鯖街道」と言われ、大量に鯖が獲れた若狭の文化を取り戻すために、地元自治体とクラウド漁業、小浜市漁業協同組合、福井県立大学、KDDIが組んで鯖の養殖効率化に挑戦。

漁業者が入力する給餌記録とセンサーで測定した環境データをAIが分析

IoTセンサーを導入することで水温をはじめとした海洋環境データを取得。給餌量は漁業者がデバイスから入力・管理することで環境と給餌の相関関係を導き出し、勘や経験をデータ化することに成功しました。漁獲量の増加、漁業者の高齢化による後継者問題の解決のみならず、鯖文化の復活によって観光客の増加も期待されています。

出荷尾数の推移

2017年から開始したプロジェクトの効果で出荷尾数が約3倍に

新規ウィンドウが開きます事例紹介: 福井県小浜市 IoTで日本遺産「鯖街道」復活へ

新規ウィンドウが開きます事例紹介: 福井県小浜市「鯖、復活」養殖効率化プロジェクトの今

宮城県東松島市:AI潅水施肥システムで農業の生産性向上

KDDIエボルバ運営の「幸 満つる 郷 KDDIエボルバ 野蒜(のびる)」にて、AIとIoTを使った農業管理システムを導入しました。

IoTで水と肥料の供給を全自動化

日射しや土壌環境をセンサーで分析し、数値に合わせて全自動で水やりと追肥を行うAI潅水施肥システム「ゼロアグリ」や、ビニールハウス内の温度を感知して自動的に遮光カーテンが開閉するシステムを開発。
従業員の作業時間を大幅に削減し、その時間を人でしかフォローできない「芽かき」などの作業に割り当てた結果、収穫量の増加や農作物の品質向上につながりました。

AI潅水施肥システム「ゼロアグリ」を用いた農業IoTのイメージ図

AI潅水施肥システム「ゼロアグリ」を用いた農業IoTのイメージ図

新規ウィンドウが開きます事例紹介: 宮城県東松島市 全自動で水と肥料を供給する農業IoT導入

新規ウィンドウが開きます事例紹介: 宮城県東松島市 MCPC award 2019 モバイルビジネス賞を受賞

このような取り組みを全国各地で行う中で、ICTやIoTといった先端技術の地域課題解決における有用性はしっかりと確認することができました。しかし取り組みの多くはまだいわゆる実証実験の段階であり、今後こういった取り組みを実装し、地域でサステナブルに活用し続けていただくためには、大きな課題が残っています。それこそが、地域でこのような取り組みを支える人財や企業が不足しているという問題です。

地域が主体となったサステナブルな地域共創に向けて

地域の課題解決において、実証実験の場合には国からの補助金なども活用できるのですが、実証実験を経て実装の段階となると、もう補助金が出ないというケースがほとんどです。つまり、実装に係る費用については、地域経済が負担せざるを得ないのです。この際に実証実験同様に東京の企業へ頼むのでは掛かるコストも高く、仮に頼めたとしても、結局地域のお金が域外に流出してしまうことに繋がります。
これを防ぎ地域でお金を還流させるには、前項で記載の通り、地域でIoTやICTなどの先端術を活用し、地域課題を解決することができる人財や企業が必要不可欠なのです。KDDIではこういった人財や企業こそが地域共創の主役であると考えており、KDDIの持つグループアセットやノウハウを活かしてこれらを育成・支援することで、地域で継続可能な、真にサステナブルな地域共創を実現したいと考えています。

地域にとっても企業にとってもサステナブルなビジネスモデル

KDDI地域共創の概念図。さまざまな角度から地域の人財や企業を支援。

地域の「ひとづくり」のために

一見どんなに効果的に見える施策でも、地域で継続可能であり、次の世代に結びつかないことには決して長続きしません。前述の通り地域を担う人財や企業の育成こそが、地域共創の鍵となります。KDDIではそのような気づきから、2019年より地域の「ひとづくり」の取り組みに注力しています。現在、岩手・宮城・福島・新潟・長野・福井などを中心に、地域のパートナー様と連携して活動を実施しており、下記に記載する事例もその一例です。

MAKOTO:スタートアップ支援で地方の新事業を後押し

仙台に拠点を置くMAKOTOとKDDIが協力し、東北発スタートアップの支援事業を推進しています。両者の共催で行った「Tohoku Future Builders」のプログラムでは、東北の起業家を対象に集合研修、e-ラーニング、ハンズオン支援で学習機会を提供しました。ノウハウの伝達だけではなく、起業家を中心としたコミュニティ創出の意味合いも強く、地域の大学をはじめとした教育機関や多彩な企業との連携も重視し、さまざまなオープンイノベーションが生み出される環境を整えています。

ワークショップでは、起業家同士で様々なアイデア・意見が交換される

新規ウィンドウが開きますKDDIとMAKOTO、スタートアップの発掘・育成による地域共創に向け、包括的パートナーシップを構築

長野県立大学、長野市:起業マインドの醸成や起業家の成長支援

長野県立大学とKDDIは、学生の起業マインド醸成を目的とした、「ベンチャー起業家講演会(オンライン授業)」を2020年9月より実施しています。
授業では、東京で活躍するベンチャー起業家をゲストとしてお迎えし、起業時のエピソードや学生時代の取り組みをお話いただくことで、起業を身近に感じてもらう事を目的にしています。

ベンチャー起業家が語る起業家マインド

長野県立大学での「ベンチャー起業家講演会(オンライン授業)」

また2020年11月には、信州ITバレー構想を推進する一般社団法人長野ITコラボレーションプラットフォーム(NICOLLAP)と共に、長野市スタートアップ成長支援業務の公募型プロポーザルを受託し、新規事業の創出などを実施する起業家を発掘・支援し、成長した起業家が新たな起業家を次々に生み出していく仕組み(スタートアップ・エコシステム)の構築も推進しています。本事業では、伴走支援対象者の公募を告知するためのイベント「長野スタートアップカフェvol.01」を開催し、長野市で起業や創業に関心のある若手世代に向けた起業セミナーを開催しました。今後は伴走支援をはじめとした起業家養成プログラムを提供するなど、長野市における起業風土の醸成を推進していきます。

長野スタートアップカフェvol.01 11.28 sat. 10:00~12:00

長野スタートアップカフェvol.01を開催

交流セミナーの様子

新規ウィンドウが開きます長野県大、NICOLLAP、KDDI、人財育成やビジネス創出による長野県の経済発展に向け提携

新規ウィンドウが開きますNICOLLAPとKDDI、長野市スタートアップ成長支援業務に係る公募型プロポーザルを受託

長野県上田高校:「デザイン思考」授業の実施

混沌とした時代を生きていく子どもたちに必要な力とは何か。新しい学びのかたちを目指す取り組みの中、生徒たちの時代を生きる対応力を育む一助として、KDDIは「デザイン思考」と「思考を構築するプロセス」を中心とした学びを、長野県上田高校の生徒へ授業として提供しました。

デザイン思考を体験するためのワークショップを実施するKDDI地域共創推進部社員

本取り組みは2020年8月に長野県教育委員会、長野県立大学、KDDIの三者により締結した包括的連携協定に基づくものであり、今後も三者で連携し、主体的・協働的・探究的でワクワクするリアルな“学び”を推進していきます。

新規ウィンドウが開きます事例紹介: 不確実な時代を生きるための新たな学び~「デザイン思考」授業の実施~

5Gをはじめ、新技術を活用する未来

今後、5G(第5世代移動通信システム)をはじめ、新技術が生まれていくなかで、先端技術を活用した地域共創の取り組みはより重要な位置を占めていくでしょう。
例えば5Gはまだ基地局の数こそ多くはないものの、地域のニーズをベースとして置局を行うことで、その特性を活かした有効なユースケースの構築が可能となります。KDDIでは地域の「ひとづくり」の取り組みに対する5Gの活用も現在準備をすすめています。5Gで地域と都心を繋ぎ、地域の学校に対して都心から最新の授業や教育コンテンツをシームレスに提供することで、地方-都市部の教育格差是正に貢献することを目指しています。

2021年2月には協定を締結する岩手県立大学の一室とKDDIの本社ビル会議室を5Gで繋ぎ、岩手県立大学の学生に対して起業論の遠隔授業を実施しました。

岩手県立大学の学生に授業を行うKDDI地域共創統括の松野(理事 経営戦略本部 副本部長)

まとめ

KDDIでは熱意をもって地域の魅力、そして地域の人財や企業を育てていくことが、地域を持続的に盛り上げていくための第一歩になると考えています。今回ご紹介した考え方や事例なども参考に、ぜひ自らの地域の未来について考えていただけますと幸いです。

  • KDDIエボルバは、2023年9月1日にりらいあコミュニケーションズ株式会社と経営統合し、「アルティウスリンク株式会社」を発足しました。なお、統合会社発足に伴い、「幸 満つる郷 KDDIエボルバ 野蒜」は、「幸満つる 野蒜農園」となりました。