社外取締役メッセージ

2026年9月
KDDIは、持続的な成長とクオリティの向上を重要テーマとして新たな中期経営戦略を策定しました。一方で、グループ会社における不適切取引事案を受け、さらなるグループガバナンスの強化も重要な経営課題として認識しています。今回、社外取締役に、中期経営戦略の策定における取締役会での議論やガバナンス強化に向けた課題認識について伺いました。
2026年5月に新しい中期経営戦略が発表されました。戦略策定の議論の中でどのような点に注目され、KDDIの成長の方向性をどのように捉えましたか。
- 淡輪 取締役
- 中期経営戦略は3年間の計画であると同時に、長期ビジョンをどう具体化するかを示すものです。今回の戦略では、AIの社会実装とKDDIの強みである通信インフラや顧客基盤、技術力との融合が分かりやすく示せたと考えています。「Fusion」の考え方は、まさにKDDIらしさを表しています。通信インフラ、Starlink、データセンターに加え、ローソンをはじめとする顧客接点などの多様なアセットを結び付けることで新たな価値を生み出すという方向性は非常に明快です。今後は、その価値を投資家をはじめとしたステークホルダーの方々にどのように伝えるかが重要です。
- 安藤 取締役
- 淡輪さんがお話しされた「Fusion」の考え方や、AIと通信基盤の融合という点は、私も非常に重要だと感じています。社外取締役に就任して2年経ちますが、改めて感じるのはKDDIが向き合うテーマの広さです。私は技術分野が専門ですが、取締役会では技術だけでなく、ガバナンス、コンプライアンス、KDDIフィロソフィ、サステナビリティなど、多岐にわたる論点について議論しています。今回の中期経営戦略では、AIが大きなテーマです。AIは従来の中期経営戦略の3年間という時間軸を超えるスピードで進化しており、組織体制やセキュリティ、データセンター、さらには電力需要まで含めてどのように捉えるかが重要な論点です。特に印象的だったのは、「地域」を強く意識して戦略が検討されたことです。AIの社会実装を進める上では、通信と電力を組み合わせながら地域の課題解決につなげていく視点が不可欠であり、AI前提社会のインフラ企業として意義のある方向性だと感じています。技術力の強化、お客さまへの価値提供、そして投資家の期待とのバランスを特に意識して、議論に参加しています。
- 奥宮 取締役
- 私は法務・コンプライアンスが専門ですが、中期経営戦略の議論では法的問題そのものではなく、ガバナンスやコンプライアンスを前提とした上で、KDDIがどのように事業を成長させていくかという観点を重視しました。特に議論したのは、通信という基盤事業をさらに強化しながら、成長領域をどう発展させていくかという点です。我々としても、絶え間なく進化するAIやデータセンターの理解を深め、適切なリスク監督を行うため、担当役員に勉強会を開催してもらうなど能動的な情報把握を行いました。その上で、KDDIが現在どのようなポジションにあり、3年後にどこまで到達できるのか、そのために必要な投資やパートナー戦略は何かという点について議論しました。一社単独では実現できない領域も多く、パートナー戦略や投資方針の実効性についても活発な議論がありました。
- 大川 取締役
- 長年お客さまと直接接する仕事に携わってきた経験から、KDDIの事業が最終的にどのような社会価値やお客さまへの価値提供につなげていくかが重要だと思います。議論において特に重視したのが、お客さまと企業がインタラクティブな関係を築き、お客さま起点で価値創造をしていくという、これからの時代の「お客さま視点」です。今回示された「お客さまを起点としたAI労働力やAI生活力」といった考え方は、テクノロジーの進化を社会生活にどう融合させていくかを重視しており、誰もが価値を実感できるアプローチであると大変期待しています。
- 池田 取締役
- 皆さんのお話を伺いながら感じるのは、それらを実現するための投資の考え方の重要性です。私は今年度から社外取締役に就任したため、今回発表した中期経営戦略の議論には参加していませんが、外部の視点から見て印象に残ったのが「規律を持った成長投資の積極検討」という考え方です。成長投資は企業として当然必要なものですが、「規律」という言葉が加わることで、投資判断に対する説明責任がより明確になります。一方で、規律を重視しすぎて機会を逃してはいけません。私がいた海運業界でも、厳しい環境下でも成長投資を続けなければならない局面がありました。KDDIは強固な財務基盤と高いキャッシュ創出力を有しています。だからこそ、単に守りに入るのではなく、「なぜその投資が必要なのか」を明確にしながら、将来の成長に向けた投資を積極的に進めていくことが重要だと考えています。
今回、役員報酬制度に資本効率の視点が取り入れられました。報酬諮問委員会ではどのような議論が行われ、その意義をどのように捉えていますか。
- 大川 取締役
- 報酬制度は中長期的な企業価値向上を支える重要な仕組みです。今回の中期経営戦略では、資本効率の視点を報酬指標に反映しましたが、これは経営が何を重視しているかを示す明確なメッセージです。また、社員にとっても会社がどういう観点で今後経営を行っていくのかが理解できるのは重要です。報酬諮問委員会における議論では指標の妥当性や報酬水準についても検証しました。報酬は機微なテーマですが、だからこそ率直かつ真摯な議論が重要だと考えています。
- 淡輪 取締役
- 役員報酬の評価指標に資本効率の視点を取り入れたことは、市場と目線を合わせた改定だったと思います。これまでの評価指標であった業績や株価に加え、投資効率を意識した経営を明確に求めることで、意思決定の考え方がより分かりやすくなり、説明責任に応えられるものです。また、短期的な成果だけでなく、長期的な成長戦略と整合した投資を促す効果も期待しています。KDDIはこれまでも将来を見据えた投資を進めてきましたが、本改定は、資本効率と成長の両立をより強く意識した経営につながっていくものと考えています。
新たなマテリアリティの議論や中期経営戦略の策定を通じて、改めて感じたKDDIらしさや事業の強みについてお聞かせください。
- 大川 取締役
- 新たな6つのマテリアリティはKDDIらしさや強みの発揮、それにより創出する社会価値を明確にしようとする強い意思を感じました。事業成長との好循環も分かりやすく、現実的な内容だと思います。一方で、「ステークホルダーのエンゲージメント向上」がなくなったことには当初疑問を持ちました。しかし、質問を重ね、その後改めて考えた結果、重要性が下がったのではなく、すべてのマテリアリティの土台となる大前提として位置付けられているのだと理解しました。その意味では、従来の考え方を発展させたものであり、「進化した」と感じています。
- 池田 取締役
- 私がKDDIの強みとしてまず感じたのは、潤沢なキャッシュフローと厚い財務基盤です。これは本当に得がたいものだと思います。また、社員の皆さんからは、「絶対に通信を止めてはならない」という社会インフラ企業としての強い責任感や誠実さを感じます。その根底にあるのが、稲盛氏が築いた思想にも通じるKDDIフィロソフィではないでしょうか。抽象的な理念ではなく、経験に裏打ちされた手触り感のある考え方が組織に浸透しており、これは他社が簡単に真似できるものではありません。さらに、通信は今後も社会の基盤であり続けます。その強固な事業基盤の上で新たな事業領域を広げていけることは、KDDIの大きな強みであり、将来性の高さにつながっていると感じています。
- 奥宮 取締役
- 私も通信事業はKDDIの揺るぎない基盤として、大きな強みだと思います。AIによるグロースを掲げる今回の中期経営戦略においても、その成長を支える通信基盤の価値をしっかり示すべきという意見は、私を含む社外取締役からも出ていました。加えて、KDDIには挑戦する文化があります。カーボンニュートラルや人口減・高齢化は、今の社会が抱える大きな課題ですが、KDDIにはこれらを解決するツールを提供し得る素地が備わっていると思います。堅実さとチャレンジ精神の両方を持ち合わせていることが、KDDIらしさであり、今後も大切にしてほしい強みです。
- 安藤 取締役
- 技術面から見ても、その通信基盤の強さは非常に大きな競争力です。KDDIは標準化や外部技術の活用に前向きなオープンな活動を重視してきた企業であり、その成果として通信品質や信頼性では高い評価を得ています。今後のAI前提社会に重要になるのは、低遅延、大容量、カバレッジです。KDDIは固定・モバイル・衛星通信を組み合わせた総合的なネットワークを持っており、そこに大きな強みがあります。一方で、技術的な優位性は永続するものではありません。研究開発、人財育成、設備投資を継続しながら、「何をやるか」だけでなく「どうやるか」で優位性を維持することが重要であり、取締役会の中でも重要なテーマになっています。
- 大川 取締役
- 皆さんのお話を伺っていて感じるのは、KDDIには事業基盤、人財、時代の追い風など成長に向けた多くの強みが備わっていることです。だからこそ、その強みに安住することなく、競争や規制、環境変化に向き合い続けることが重要です。その中で求められるのは、挑戦する姿勢とリスク管理を両立させることです。松田社長が掲げる「挑戦する」「夢中になる」という姿勢を維持しながら、環境変化にも対応する。その両立が持続的成長につながると考えています。
今回のグループ会社における不適切取引事案を受けて、グループガバナンスや取締役会の監督機能についてどのような課題認識をお持ちでしょうか。また、今後どのような強化が必要だとお考えですか。
- 奥宮 取締役
- 今回の不適切取引は、グループ会社における事案ですが、長期間にわたり問題を把握できず、発生を防げなかったことを社外取締役一同重く受け止めています。リスクは問題が起きてから対応するのではなく、事前に分析し備えることが重要であり、そのためにリスクマネジメント委員会の設置も進めてきました。一方で、今回の事案を受け、グループガバナンスにはなお課題があることを痛感しています。私は、リスクを把握し未然に防ぐ仕組みづくりと同時に、グループ会社全体の一体感や風通しの良さも重要だと考えています。株主総会では、「『つなぐチカラ』と言うなら、まずグループの中をつなぐべきではないか」という厳しいご意見もいただきました。そうした声を真摯に受け止め、支え合う文化と実効性あるガバナンスの両立を進めていくことが重要です。
- 安藤 取締役
- 今回の件について、「最後のひと押しをすれば分かったのに」という残念な思いと反省があると同時に、事案の規模や影響の大きさを踏まえ、その責任の重さを改めて痛感しています。奥宮さんがおっしゃる両立を進めるために、私はフィロソフィと仕組みの両輪が必要だと感じています。つまり、どれほどフィロソフィが浸透していても、過ちを犯すのが人間であり、その不正を防ぐ仕組みがなければ十分ではありません。事業が多様化する中で、AIやデータ分析を活用したモニタリングやリスク管理の高度化は不可欠です。逆に拡大する事業すべてに完璧な仕組みを構築することは至難であり、その弱点を、関わる人のフィロソフィで補うことが欠かせません。フィロソフィと仕組みは両輪であり、どちらが欠けても再発防止は実現できないと思います。
- 池田 取締役
- グループ経営を引き締める上で経営トップの姿勢も重要です。今回の事案については、表面的に見れば内部統制に課題があったと感じますが、一方で、これだけ多様な事業とグループ会社を抱える中、グループ経営の難しさがあったと感じました。経営トップがすべてを細部まで把握することは現実的ではありません。しかし、だからこそトップが各事業に関心を持ち、「見ているぞ」という姿勢を示し続けることが重要です。また、こういった事案は特定の個人だけの問題ではなく、組織の目標や文化、日々発せられるメッセージの影響を受けて起こるものでもあります。内部統制の仕組みを強化することはもちろん、組織としてどのようなメッセージが伝わっていたのかを振り返り、グループ各社の経営陣が共通の倫理観と当事者意識を持って経営にあたることが、再発防止につながると考えています。
- 大川 取締役
- 今回の事案を通じて感じたのは、KDDIの事業規模やグループ経営の広がりに合わせて、ガバナンスや監督機能も進化させる必要があることです。事が起こる前の気づきが必要でした。ここは大きな反省点です。そして重要なのは、単にガバナンス強化を掲げることではなく、課題を正しく分析し、適切な手を打つこと、さらに、施策は実施すること自体ではなく、その内容が期待した効果を生み出しているかを検証することが必要です。また、このような事案はフィロソフィが浸透していないと言われても弁解できませんが、稲盛氏の言葉にもある通り「ゴールは永遠に続くもの」です。理念や倫理の浸透に終わりはありません。今回の事案を契機に様々な課題を見つめ直し、グループ全体で共有するとともに、モニタリングや経営レビューの実効性向上につなげていかなければならないと考えています。
- 淡輪 取締役
- 今回の不適切取引については、長年にわたり問題を見抜けず、結果として大きな事態に至ったことを、社外取締役として深く反省しています。兆候を捉えるためにどのような情報を求めるべきだったのか、改めて考えさせられました。また、企業風土そのものに問題があったのではないかとの見方もありましたが、私は社外取締役としてそのような圧力があると感じたことはなく、むしろ社員の主体的な挑戦を後押しする企業文化はKDDIの強みであると認識しています。この事案を受けて過度にリスク回避へ傾き、KDDIが大切にしてきた挑戦する文化までも萎縮させてしまってはなりません。今後は事業特性に応じたリスク把握とグループガバナンスの実効性向上を通じて、再発防止につなげていくことが重要だと考えています。
AI前提社会の競争力の源泉として、人財や組織、知的財産などの無形資産の重要性がますます高まっています。KDDIの強みや今後強化すべき点についてどのように考えていますか。
- 安藤 取締役
- 私は教育機関で長く人財育成に携わってきましたが、急速に立ち上がる分野、特にAIの人財の確保と育成は本当に難しい課題だと感じています。KDDIではAI領域の体制強化を進めていますが、こうした人財は、通信分野に限らずすべての分野で、また世界中で、まだ足りないと思います。加えて、AIが主役となりつつあるセキュリティやリスク管理はKDDIだけで完結するものではなく、業界や世界全体で情報を共有しながら取り組むことが欠かせません。人財育成とオープンな連携の両立が、これからますます重要になると考えています。
- 奥宮 取締役
- 人財は競争力を左右する重要なテーマだと思います。今後さらに成長していくためには、専門性を高める学びの機会や、新たな挑戦を後押しする環境づくりが重要です。また、人財や組織の価値を高める上では、安藤さんがおっしゃるような会社の枠を超えた交流や知識の共有も欠かせません。高輪本社のような共創の場を活用しながら、事業や研究成果を共有し、横のつながりを強化していくことにも期待しています。さらに、グローバルに事業領域が広がる中で、世界の多様な人財と交流しながら活躍できる国際人財の育成も重要なテーマです。人財・組織・知的財産を支えるのは人であり、その成長を支える仕組みづくりが、将来の企業価値向上につながると考えています。
- 淡輪 取締役
- 人財育成という点では、KDDIには既に大きな強みもあると感じています。KDDIの人財・組織の強みは、フィロソフィを単なる理念ではなく、一人ひとりが自分ごととして捉え、行動につなげようとしている点にあると思います。私自身、稲盛氏の「動機善なりや」という言葉に象徴されるように、人としてどうあるべきかという価値観が組織の根幹にあることは大きな強みだと感じています。また、人事制度もバランスが取れており、離職率の低さなどにもその成果が表れていると思います。今後は、こうした強みを維持しながら、専門性を高める機会や人財育成への投資をさらに充実させるとともに、人財に関する取り組みや成果を社外へ積極的に発信していくことも重要です。
- 大川 取締役
- ここまでのお話にも共通していますが、企業の持続的な成長を支えるのは人財や知的財産といった無形資産だと思います。知的財産も時間がたてばその効果は陳腐化してしまいますが、重要なのはそれを生み出し続ける組織や知識創造のプロセスです。社内外の知見を結び付けながら新たな価値を創出し続けることが、無形資産の価値向上につながると考えています。
最後に、今年度より社外取締役に就任された池田取締役にお伺いします。これまでの議論を踏まえ、KDDIの企業価値向上に向けてどのような役割を果たしていきたいと考えているか、お聞かせください。
- 池田 取締役
- 私が貢献したいのは、KDDIが投資家をはじめとした多様なステークホルダーの期待に応えながら企業価値を高めていくことです。企業価値とは投資家だけのものではなく、社会やお客さま、取引先さま、社員など、幅広いステークホルダーとの関係の中で築かれるものだと考えています。私は社外取締役としてリスクとリターンを見極めながら、必要な挑戦には背中を押す役割を果たしたいと思います。また、今後の成長投資を判断していく上では、「なぜKDDIがやるのか」「KDDIだからこそできることは何か」という視点を大切にし、ほかの社外取締役の皆さんとともに、企業価値向上につながる議論に貢献していきます。

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